危険な瞳に恋してる
 紫音も、また。

 今日、旅に出る。

 薫ちゃんの行き先とは、別の国に。

 本当は。

 ココは喜ぶトコロなんだろうけど、寂しいったら仕方がない。


「あら、そろそろ時間、ね?」

 最初に飛び立つ薫ちゃんが、時計を見て言った。

 薫ちゃんは。

 横のスーツケースの一つを軽々と持って、わたしに、にこっと、微笑んだ。

「春陽ちゃん、元気でね?
 また会いましょうね?」

「うん!
 薫ちゃんもね!
 日本に来たら、連絡ちょうだいね?」

「ええ、もちろんよ!」

 言って、薫ちゃんは、今度は紫音を見る。



 ……男たち二人に、会話はなかった。

「……紫音……!」

 薫ちゃんは、たった一言。

 ココロにあった全ての感情を名前にのせてつぶやくと。

 力強く、紫音と握手を交わして、くるりと背を向けた。

 そして。

 もう、薫ちゃんは、後ろを振り返るコトはなかった。

「……元気でねっ!」

 わたしの声に拳を突き上げ、薫ちゃんは、前だけを見て、すすむ。

 
< 303 / 313 >

この作品をシェア

pagetop