危険な瞳に恋してる
 紫音と薫ちゃん。

 二人の間には、いくつもの出来事があったはずだった。

 由香里さんのコト。

 ダーク・クラウンでのコト。

 そして。

 アレクサンド・ライトのコト……

 色々な想いと出来事が複雑に絡まって。

 たぶん、言葉では語りきれないほど多いかもしれない。

 それなのに。

 こんなに、あっさりとした別れは。

 いかにも、紫音と薫ちゃんらしくて、見ていて、気持ちが良かった。

「……行ったな……」

 薫ちゃんの大きな身体が、人ごみに消えて、紫音は、つぶやいた。

「……そうだね……」

 うなづくわたしの肩に、紫音は、そっと手を置いた。

「オレも、そろそろ時間だな……」

「……紫音……」

 肩に置かれた手を、わたしは、そっと、包み込んだ。

「……やっぱり、わたしも……
 ……紫音のアトを追いかけちゃ……ダメ?」

 わたしの言葉に、紫音は、ふっと、微笑んだ。

「春陽に来られては……オレは、ずっとお前を抱いて勉強にも、仕事にもならん。
 ハニー・ムーン旅行の機会は、また他に作ってやるから。
 今は、お前はおとなしく、日本で待っとけ」
 
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