ファミリアストレンジャー
「柴谷さん、顔上げて」


ふいに三上さんは優しい声で上から降ってきた。

私をなだめようとしているのがわかった。


「いやです」


「柴谷さん」


三上さんは私のあごに手を添えて私に上を向かせた。

三上さんと目が合う。

たまらず逸らしてしまう。


「私は柴谷さんが思っているほど立派な人間じゃないよ。君にとって、私は君を痴漢から救ったヒーローかもしれないけど、私はただの会社員だから。君は私のほんの一面しか知らない」


「だったら私、三上さんのこと、もっと知りたいです」


私は自分でも驚くほどはっきりと、三上さんの目を見て言った。

三上さんはひとつも身じろぎもせず、私の目を見つめ返した。



しばしの沈黙。



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