いつかの君と握手
声を大きくしないよう、顔を寄せ合って話していると、襖がすらりと開いて加賀父が顔を覗かせた。


「なんだ。急に声がしなくなったから、寝ちゃったのかと思った」

「あ、いや、じいさん起こしたらまためんどくさいじゃないっすか」

「ああ、大丈夫。あの人は簡単には目が覚めないから。
そうだ、今風呂を沸かしてるんだ。順番に入るといい」


続き部屋になっているキッチンに入っていく加賀父に、三津が驚いたように訊いた。


「え、ここ風間さんの家じゃないっすよね? いいんすか」


三津の問いに、加賀父はあっさり「うん」と答えた。


「平気。先生は人を招くのが好きな人だし。それに、今から寺まで歩くのも面倒だろ」


確かに。壁にかけられた時計を見れば、12時を回ってしまっていた。


「布団もあるし、今日はここに泊まろう。
そうだ、腹減ってないか? さっきまですき焼きを食ってたんだけど、まだ材料が残ってるんだ。三津、ビールもあるけど」

「あ、頂きまっす! やった!」


立ち上がって、キッチンへ向かう。
戻ってきた三津は、手に缶ビールを2本抱えていた。
1本を柚葉さんに放る。


「みーちゃんは未成年だから、だめー」

「言われなくてもいりませーん」

「あ、風間さん、アタシ手伝いましょうか?」

「いいよー、ゆっくり座ってなー」


立ち上がりかけた柚葉さんを制す声がして、次いでじゅわじゅわと美味しそうな音と、香り。


「かんぱーい!」


成人2人は、コン、と缶を合わせて、酒盛り開始。
柚葉さんが綺麗な喉を露にしてビールを流し込んでいく。
姐さん、いい呑みっぷりっす。
お酒の味を知らないあたしでも、美味しそうに感じます。


壁にもたれて、楽しそうな2人をなんとなしに眺める。

ああ、この部屋、なんか落ち着くー……。
いい匂いもするし、目を閉じたら自分の家にいるような錯覚を覚える。

なんだか、気持ちいいー……。
と、左側に温もりを感じて薄く目を開けた。

ああ、イノリがあたしにくっついていたのか。

こいつ、そんなにあたしが好きなのかー……。


何故だかおかしくなって、へへ、と笑ってから、再び目を閉じた――――。


『おまたせー。あれ、寝てる』

『んあ? あ、こいつら2人して寝てんじゃん!』

『朝から歩き通しだったから、疲れちゃったのねー』

『おうおう、くっついて仲がいいねー、全く』

『息子の成長ってのは早いもんだなー』


遠くで和やかな会話を聞いたような気がした。

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