いつかの君と握手
何?
こいつ、あたしのこと知ってるの?

あ、もしかして、あたしが大澤のこと知らないから、それでじろじろ見てたの?
はて、と小首を傾げて訊いた。


「他人の空似とかじゃないの? あたしみたいな女、そこらへんに群生してるし」


断言できるくらい、大澤を知らない。
多分、他の誰かと勘違いしてるんだろう。
そうか、ようやく理解した。
知り合いじゃないかと思ってたわけね。了解了解。

結構珍しい偶然だと思うけど、多分『みやお』という名前で、『ミャオ』というあだ名の女の子が他にいるのだ。
ってこれ、確率の低い話なんじゃないだろうか。
名前とあだ名が同じで、しかもたぶん容姿もそこそこ似てる、なんてさ。
上記事実の起こる確率を、誰か計算して教えてくれませんかー。
結構低い数値だと思うんですー。

しかし、現実って奇跡の連続なのね。驚くわー、と親切に教えてやったあたしに対し、大澤は少し苛立ったように言葉を吐いた。


「オマエみたいな女、ごろごろいたら迷惑だよ」
「な」


なんだと、このやろう。
迷惑といわれるくらいのこと、あたしがしたってか、おい。
こちとら人様に害を及ぼすことなく、地道にひっそり生きてやがんだぞ、こら。


「ど、どしたの? ミャオちゃん」


あたしと大澤に変な空気が生まれたのに気付いた琴音が訊いた。


「……こいつ、あたしのこと知ってるみたいなんだけど、あたしは知・ら・な・い・の」


最後の部分、力を込めて言ってやった。
知らないもんは、知らない
ついでに睨みつけてやる。

しかし大澤は、じろ、とあたしを見下ろし、


「織部のじいさん、会いたがってるぞ。
オマエ、帰ってから一度も連絡しないからさ」


と意味不明のことを言った。


「は?」


おりべのじいさんって、ダレ?

こいつ、あたしの意表をつくのは上手いかもしれん。
何というか、毒気を抜かれる。
本当にあたしが自分の知り合いだと思ってんの?


「会いたがってると言われても、知らん。つーか、あたしがあんたにいつ会ったっていうわけ?」


そうだ、そこが大事じゃないか。
話を細かく訊けば、大澤に自分の勘違いだったと納得させられるだろう。
自分が間違っていたと大澤が気付けば、最敬礼の角度で謝罪させてやる。


「……9年前」
「随分前だな、おい。ええーと、小学、1年生、かな?」


指を折って確認する。
大澤はこくんと頷いた。


「1年生のとき? 大澤と? どこで?」
「……K駅」

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