いつかの君と握手
大澤父は、サクサクと玉砂利を踏んでこちらに近寄ってきた。

間近にみた顔はやはり大澤似で、そりゃもうかっこよろしいことこの上ない。
つーか、アダルティな要素が加味されて、大澤を優に上回るイケメンぶりである。
ネクタイを緩めた姿がこれまた大人の魅力爆発。
朝っぱらからこんなにフェロモン出してていいんですか、弁護士が。


あー。大澤の母ちゃんってすんげえいい女だったんだろうなー。


大澤父と加賀父を見比べる。
だってこの2人が取り合ったわけでしょ。
多分、希少種レベルの美女だな。
うあー。どんな人なのか見てみたかったなー。想像するだけでわくわくするわ。


「で、こちらの女の子は、まさかとは思うがおまえの新しい彼女かな?」


は。
いかんいかん。妄想に飲まれかけてた。
大澤父の言葉に、現実に戻った。


「いやいや、この子は俺の彼女じゃないよ」


加賀父が首を振って、「祈の彼女だってさ」と言った。


へ? と間の抜けた声を出す大澤父。


「彼女? 祈の?」

「そう。手を出すなって注意くらったから、おまえも気をつけときな」

「ちょ、あの、あれはですね」


あれは違うんですー。
つーか、その話をここで持ち出さないでー。


「ふむ……、祈は早熟だね。おまえが育てたせいじゃないかな、一心」


いやいや、そういう問題じゃないでしょう。
しみじみと呟く大澤父に脱力した。


「いや、おまえのDNAじゃないか? 俺はその場を見逃したんだけど、ツバつけたとか言って不意打ちにキスしたらしいぞ」


げっふぉーっ!? 
思わず噴き出した。どうしてそれを!
いや、チクったのは間違いなく三津だ。
あいつ絶対に殺ってやる。安眠できるのも今のうちだからな。


「手も早いのか。いやはや、参ったね」


くすくすと柔和な笑いをこぼす大澤父。
それでいいんかい。2人とも息子の教育考え直せ。


つーか。
ふと、穏やかに笑いあう2人の顔を見つめた。

さっきの加賀父の話の内容からすると、2人の仲はぐちゃぐちゃに荒れててもおかしくないように思うんだけど。
でも、とても親しげに見えるんですが。
旧知の仲といった雰囲気を醸しているんですが。

はて、これはどういうことなのかしら?

不思議そうに見ていたあたしに気付いたのだろうか。
加賀父がふ、と瞳を細めて笑った。


「男はさ、大切な女からの頼まれ事はぜひとも叶えてやりたいもんなんだよ。それがたとえ難しいことでも」


はあ、と気の抜けた相槌を返す。


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