いつかの君と握手
「みーちゃん、さっきはスミマセンデシタ。あの、一所懸命作りましたので、お召し上がりクダサイ……」


目の前に、コトリとお皿が置かれた。
きゅうりやトマト、ナスなど彩り鮮やかな野菜がたっぷり乗った、えーと、そうめん?


「ヒジリくん特製の夏野菜の冷製そうめんでございます……。あ、柚葉さんもどうぞ」

「ん」


あれから三津は柚葉さんにがっつりとおしおきを食らい、せめてものお詫びということで朝食(時間的には昼食か? のんびりしていたら太陽はすっかり高みにいた)を作ってくれたのだ。
顔を窺い見れば、柚葉さんに右頬を攻撃されたらしく、ほんのり赤い。

うーん、なんだか申し訳なくなってしまう。
汚いブツを見せられたのは迷惑至極だが、こちらの体に関しては見られていないし(柚葉さんに瞬殺されてたので)、もういいやと思うんだよなー。
超絶いいカラダの柚葉さんを見慣れた三津にとっては、貧相なあたしの体なぞ別に見たくなかっただろうし。
たぶん本当に、あたしがいることを知らなかったんだろうな。


「えーと、とにかく、いただきます」


目の前のものはすごく美味しそうだ。
せっかくなので頂くことにしましょう。
添えられたフォークを手にして、まずはイタダキマス。


「あ。おいしい」


さっぱりして、すごくおいしい。
トマトもきゅうりも瑞々しくて甘いー。
あ。茄子の素揚げだ。大好きだー。


「三津、すんごくおいしい!」


なんだこれ。味付けも完璧。この三津がこんな素敵飯を作れるとは!


「へへん。だってコックだぜ、これでも」

「うん、おいしいな。三津、後で祈にも作ってやってくれな」


一緒に食べていた加賀父も驚いたように言う。


「うっす。これくらい簡単っすから。それに、じいさんの作った野菜が旨いんすよ」

「丹精こめとるからのー。たんと食え」


じいさんはすっきりとした顔で、庭先でえっほえっほと体操をしている。
無精ひげも剃り、健康そのもの、といった様子。
こんなに血色のいい顔色をしておいて、余命わずかなわけないだろう、と改めて思う。

しかし、急にこんな人数が家に泊まっていても平然としているのがすごい。
誰じゃ、とか聞くだろ普通。
いや、聞かれて一番困るのはあたしだけどもね?


「そろそろイノリを起こしてこようかな」


先に食べ終えた加賀父が立ち上がった。
じゃあオレは祈の分を作っておくか、と三津も台所へ向かう。

柚葉さんとのんびりそうめんを食べていると、遠くから蝉の鳴き声がした。


「なーんか、夏休みに田舎のおじいちゃんの家に来たって感じー」


汗をかいたガラスのコップには並々と麦茶。
それを半分くらい一気に飲んで、柚葉さんが言った。


「そうですねー。すんごく落ち着くし」


ちゅる、とそうめんを啜って、室内を見渡した。
年季の入った家具に、少し色あせた畳。
広い縁側の向こうには朝顔が咲いていて。
ついでに体操中のじいさん付き。


< 126 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop