いつかの君と握手
父方のじいちゃんとは同居だし、幸子(母)の実家は都会ど真ん中のマンションだし、あたしにはこんな田舎はないのだけれど、柚葉さんの言っていることはよく分かる。

いーよなー、こういうの。
年とったら田舎に住みたいって人が多いとか聞くけど、こういう雰囲気の中にいたいということなのかな。


「おは、よー……」


目を擦りながらイノリが現れた。


「おはよー、イノリ」

「おはよ、祈くん。疲れはとれた?」

「んー……」


少年は大きな欠伸をしつつ、ちょこんとあたしの横に座った。


「ねむい……」

「そっか。でも、結構長く寝てたよ。もうお昼だもん」

「へ? あ、ほんとだぁ」


壁にかけられた時計を見上げてへらりと笑う。


「よく寝てたから、起こすのがかわいそうなくらいだったよ」


後から入ってきた加賀父が苦笑した。


「ほら、祈。目が覚めるから顔洗ってきなさい」

「むー……」


いやいや、と首を横に振る。
よっぽど眠たいんだなー。


「イノリ、顔洗ってきな? ほっぺたに豪快にヨダレの跡があるよ」

「へ!?」


意地悪く言ってやると、ぼんやりしていた目が大きく開いた。


「ど、どこ?」

「左側。いやー、かわいいなあ、イノリちゃんは。あたしが拭いてやろうか?」


にやにやと頬を指差すと、案の定すっくと立ち上がり。


「父さん! せんめんじょどこ!?」

「あ、ああ、あっち」


加賀父の先導を受けて行ってしまった。


「みーちゃん、扱いになれたねー」

「イノリからしてみれば不服でしょうけどね。と、ごちそうさまでした。おいしかったです」


三津の評価急上昇だ。料理のできないあたしからしてみれば、この味は天才と呼ばざるを得ない。


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