いつかの君と握手
「あ、柚葉さんのお皿も空ですね。一緒に片付けちゃいますね」

「え、ああ、ごめんね?」

「いえいえ」


台所へ行けば、三津が祈の分のそうめんを作っているところ。
流し台には、使い終わった調理器具がまだ残っていた。

よし、人間食器洗い機の出番ですな。


「あ。みーちゃん、さんきゅ」

「これぐらい当たり前だし。ごちそーさまでした」


カチャカチャと洗っていると、子どもが駆ける足音がして、


「ミャオ! きれいにしたからな!」


とイノリが突進してきた。


「ふわ!? え、ああ、うん」


がっしとあたしの背後にしがみつくイノリ。
驚いて見れば、前髪に雫をたっぷり残している。


「ほらー、ここ濡れてる。ちゃんと拭かなくちゃだめだよ」

「へへー。ミャオが拭いてー」

「はあ? もう子どもらしいことはしないんじゃないの、あんた」

「これは違うもん」


なんのこっちゃ。
子どものすることじゃんよ。
しかしまあ甘えられると拒否はできん。
ポケットに入れていたハンカチで拭いてやると、イノリは気持ちよさそうに目を閉じた。


「うーん、成長早すぎだねー。祈は」


加賀父が感慨無量、といった声音で呟くのが聞こえた。
だから、なんのこっちゃ。


イノリも食事を済ませると、みんなダラダラと畳に転がり、少し早い夏休みの昼下がり
といった雰囲気になった。

体操をし、畑に手を入れたじいさんは、昼寝といって早々に部屋に引っ込み。
今はぐわぐわとウシガエルのようなイビキを響かせている。
加賀父は、節子おばあさんからちょっと寺に戻って来いと言われ、一旦帰ってしまった。


「はー、まったりぃ」


縁側の日陰部分に寝転び、ひんやりとした床に頬をくっつけているあたし。

三津と柚葉さんは、座布団を枕に、畳の上で仲良く眠っている。
んごご、と三津のイビキがだんだん大きくなってきたので、熟睡しているのだろう。

しかし、いいのかねー、これで。
あたしは一応9年前にタイムスリップという異常事態のさなかにいるはずなのだ。
なのにこんなことでいいの?

これがSF映画ならば、問題が矢継ぎ早に起こっているだろうに。
いや、問題が起こっても困るんですけどね。
あたしってばごく普通の女の子だし、困難なんてそうそう乗り越えられないし?


む。誰だ、あたしに近寄ってきたのは。


「なんだ、イノリかー」

「ここでいっしょにねててもいい?」

「いいよ。ここ冷たくて気持ちいいんだよ」
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