いつかの君と握手
あたしの横で、同じようにほっぺたを床にくっつけるイノリ。


「ほんとだ、つめたーい」

「だろ?」


どちらからともなく笑い、冷たさを堪能する。
はー、こういう些細な幸せって、いいわー。

ネコのように瞳を細める顔を見て、今朝会った大澤父の顔を思い出した。
うん、やっぱり似てる。
親子ってすごいわー。
まあ、あたしも幸子似だってよく言われるしね。
ふふ、と笑うと、イノリが不思議そうな顔をした。


「どうかした?」

「いや、やっぱ親子って似るんだなあと思って。父ちゃんによく似てる」

「……ええ? ミャオ、どうしておおさわの父さんの顔を知ってるの?」

「あ」


いかん。うっかりしゃべってしまった。
言ってよかったんだろうか、うーむ。

しかし、大澤父はイノリが心配でやってきたわけだし、別にいい、か?


「ミャオ? 知ってるの?」

「えーと、はは、実は今朝、会った」

「え!? なんで!?」

「それがさあ、イノリのことが心配で来たみたい。仕事前に無理に来たみたいで、加賀父と話してすぐに帰って行ったんだ」


イノリの顔が曇った。


「そ、う……、なんだ」


呟くように言って、口を閉じた。


「えーと、優しそうな人だね。すごくかっこいいし」


沈黙が長く続いたので、少し考えてから言った。
しかし発言を間違えたようだ。イノリはむう、と唇をまげてしまった。


「父さんのほうがかっこいいよ!」

「へ? ああいや、そりゃもちろん加賀父もかっこいいよ。当たり前だよ。
でも、大澤父もかっこよかったよ? スーツがよく似合っててさあ」

「……そ、うなの?」


かっこよかったことは本当だし。
少し強く言うと、イノリはちらりと興味の色をみせた。


「そうだよ。かっこよかったよ。イノリもきっとあんな感じの大人になるんだろうなあ、って思った。将来が楽しみだね」

「え、そうかなあ。おれもあんな風になるのかなあ」

「きっとなるよ。しかも加賀父のワイルドな感じもうまいこと引き継げば、あんた怖いものなしだよ。
どっちの父ちゃんよりもいい男になるよー」

「えー、ほんとうにー?」


まんざらでもないようにへへ、と笑う。

ふむ? 


「まあ、イノリの努力も必要だろうけどな。がんばるんだ」

「あ、うん」
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