いつかの君と握手
ぽんぽんと頭を叩くと、イノリは素直に頷いた。
しかし、瞳をあたしに向け、躊躇いながら訊いた。


「え、と。あのさあ、ミャオ。おおさわの父さん、何か言ってた?」

「ん? ああ、イノリをよろしく、って言われたかな」

「それだけ?」


不満げに唇を尖らせる。

ふむ、む?


「それだけって、どんなこと言ってほしかったのさ」

「え……い、いやべつに。何か言ったのかなあっておもっただけ」

「ふうん。まあ、でもイノリが無事で安心してたみたいだったよ。昨日もずいぶん探してまわったんじゃないかな」

「そ、そっか」

「大澤父のこと、気になるの?」

「そんなことないよ! ただ、ぼくを迎えに来たのかなって思ったからっ」

「あ、そういえば明日は日曜だから、今晩も泊めてやってくれ、って言ってた」

「!? ふう、ん……」


ふむ、ふむ。

ぷい、と顔を逸らした少年の横顔を眺めた。

なるほど、なあ。
6歳児でも、複雑な気持ちを抱えてんだ。
相反する感情、かあ。

あたしはこの子くらいのときって、何考えてたんだっけなー。

ぼんやりと考える。
うーん、その日のおやつのことが一番の悩みだったような気がする。
あとはアニメと鳴沢様の放映時間?

むう、平凡というか、平和というか……。
いや、そうか。そうなんだ、平和だったんだ、あたしは。

そっか……。

イノリに対して、少しの申し訳なさを感じた。

イノリに偉そうに何かを言うには、あたしは経験不足だ。
そして経験不足を補うものを持ちあわせていない。

考えてたつもりだけど、考えなしなんだよな、あたしは。
人間が浅いんだ。
むう、ヤバい、自己嫌悪だ。


イノリに投げかけてよい言葉がみつからず、瞳を閉じた。
もっともっと色んな経験しなくちゃなー。
不足を補えるくらいの知識と想像力を身につけるのだ。


うーむうーむと考えていると、なんだか、眠くなってきた……。
いかんいかん、これだからあたしはダメなんだ。
しかしもう少しこうしてまどろんでみようかな……、そんな感じで意識を手放していた。


次にぱちりと目を開けると、ポーンポーンと壁掛け時計が鳴っているところだった。
瞳だけ動かして時間を見れば、15時ちょうど。
うえ。1時間以上寝ちゃってたのか。


むく、と起き上がると、すぐそばに加賀父がいた。


「あ、起きた?」

「ふ、ふへ?」


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