いつかの君と握手
ぎゃ!? もしかしてだらしない寝顔を見られたのだろうか。
やだやだ、ヨダレ垂れてないよね!?
ささささ、と口元を拭う。よし、問題なし。
と気付けば、加賀父はあたしの真横で寝ているイノリの顔を覗きこんでいた。
ああ。そっちですよね、普通。
意識しちゃってはずかしー。
「少し日に焼けたなあ」
「あ、昨日は日差し強かったですからねー。イノリは帽子かぶってなかったし」
「そっか。あ、この絆創膏はどうしたんだろう」
「こけたんです。あたしのために昼食とれそうな場所探すって張り切ってくれて」
「ふ。そうか、いいところみせようとして失敗したか」
そっとイノリの額を撫でる。
すうすうと寝息をたてていた少年が、微かに眉間にシワを寄せた。
「うわ、大澤の表情にそっくりだな」
「9年後はもっと似てるんですよ。さっき大澤父の顔を見て驚きましたもん」
「そうか。やっぱり本当の親子なんだなぁ」
「あ。いや、その、えと」
うわ、またもや考えなしの言い方しちゃったか。
うろたえたあたしを見て、加賀父がくすりと笑った。
「気にすることないさ、本当のことなんだから」
「いやでも、その、すみません」
「謝ることじゃない。大澤は祈の父親なんだから、似ていて当たり前だしね」
加賀父がイノリの頭をそっと撫でる。今度はシワが寄ることはなかった。
「そういえば今朝、どうして俺が祈を引き取らないか、って訊いたよね?」
「え……、あ、まあ、はい」
さっき自己嫌悪と共に眠りに落ちたせいか、申し訳なさが襲ってくる。
考えなしに発言しまくってすみません。
イノリのことを思っただけだったんです。
「理由、なんだと思う?」
「へ?」
え。それを訊くわけ。
ちょっと、言いにくいじゃん。
しかし、あたしも勝手に加賀父の事情に踏み込んでいるわけだし、わかりません、じゃいけないよな。
「ええと、失礼を承知で言いますけど、金銭面じゃないんでしょうか」
「金銭面?」
「はい。柚葉さんに少し聞いたんですけど、劇団って貧乏なんでしょう?
加賀父はお金があまりなくて、だから金銭的に余裕のある大澤父にイノリを渡した、んじゃないかと思っています。
子どもを育てるのに、お金が必要ですもんね。塾とか習い事って、結構高いですし」
言って、申し訳なくなる。本当に失礼だよな、あたし。
貧乏だからでしょ、って言ってるんだもんなあ。
しかし、きちんと答えないほうが、加賀父に悪い。
怒らせてしまっただろうか、とおずおずと様子を窺えば、加賀父はうんうんと頷いた。
やだやだ、ヨダレ垂れてないよね!?
ささささ、と口元を拭う。よし、問題なし。
と気付けば、加賀父はあたしの真横で寝ているイノリの顔を覗きこんでいた。
ああ。そっちですよね、普通。
意識しちゃってはずかしー。
「少し日に焼けたなあ」
「あ、昨日は日差し強かったですからねー。イノリは帽子かぶってなかったし」
「そっか。あ、この絆創膏はどうしたんだろう」
「こけたんです。あたしのために昼食とれそうな場所探すって張り切ってくれて」
「ふ。そうか、いいところみせようとして失敗したか」
そっとイノリの額を撫でる。
すうすうと寝息をたてていた少年が、微かに眉間にシワを寄せた。
「うわ、大澤の表情にそっくりだな」
「9年後はもっと似てるんですよ。さっき大澤父の顔を見て驚きましたもん」
「そうか。やっぱり本当の親子なんだなぁ」
「あ。いや、その、えと」
うわ、またもや考えなしの言い方しちゃったか。
うろたえたあたしを見て、加賀父がくすりと笑った。
「気にすることないさ、本当のことなんだから」
「いやでも、その、すみません」
「謝ることじゃない。大澤は祈の父親なんだから、似ていて当たり前だしね」
加賀父がイノリの頭をそっと撫でる。今度はシワが寄ることはなかった。
「そういえば今朝、どうして俺が祈を引き取らないか、って訊いたよね?」
「え……、あ、まあ、はい」
さっき自己嫌悪と共に眠りに落ちたせいか、申し訳なさが襲ってくる。
考えなしに発言しまくってすみません。
イノリのことを思っただけだったんです。
「理由、なんだと思う?」
「へ?」
え。それを訊くわけ。
ちょっと、言いにくいじゃん。
しかし、あたしも勝手に加賀父の事情に踏み込んでいるわけだし、わかりません、じゃいけないよな。
「ええと、失礼を承知で言いますけど、金銭面じゃないんでしょうか」
「金銭面?」
「はい。柚葉さんに少し聞いたんですけど、劇団って貧乏なんでしょう?
加賀父はお金があまりなくて、だから金銭的に余裕のある大澤父にイノリを渡した、んじゃないかと思っています。
子どもを育てるのに、お金が必要ですもんね。塾とか習い事って、結構高いですし」
言って、申し訳なくなる。本当に失礼だよな、あたし。
貧乏だからでしょ、って言ってるんだもんなあ。
しかし、きちんと答えないほうが、加賀父に悪い。
怒らせてしまっただろうか、とおずおずと様子を窺えば、加賀父はうんうんと頷いた。