いつかの君と握手
邪魔するわけにはいかないしね。
欠伸をして見せると、イノリは重ねて誘うことをしなかった。


「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃい」


連れ立って出て行く2人を見送った。


「行ったな」

「へ? あ、三津」


いつから起きていたのか、玄関の戸が閉まる音と同時に、三津の声がした。


「やっぱ少しかわいそーだよな」


ぼりぼりとお腹を掻きながら言う。


「でも風間さんの言うこともわかるしなー」


本当にいつから起きてたんだ、こいつ。


「三津も、加賀父の言ってること、わかる?」

「あ? ああ、父親がトクベツかとかって話だろ? 影響力はあるな、確かに」

「ふうん、なるほど」


そんなもんなのか。
父・孝三を思い出す。
別に特別って感じじゃないけどなー。
影響力って問題になると、孝三より鳴沢様のほうがよっぽど大きいしな。

って、これはあたし個人の問題だろうか、うーむ。


「オレは風間さんも充分いい男だと思うけどなー。でも、風間さんがあそこまで誉める弁護士父っつーのも気になるよな」

「あ、すげえかっこよかったですよ。イケメンスーツでした」

「は? いつ見たの?」

「今朝早くに、様子を見にきたんです。加賀父と話してすぐ帰ったんですけどね。祈が心配だったみたいで」

「へえ。弁護士父も、祈に愛情があるんだなあ」

「ですね。それがあたしにも分かりました」

「そっか。最初は辛いかもしれないけど、きっといつか祈のためになるさ」

「です、よね」


2人でぼんやりしていると、柚葉さんがふあああ、と大きな欠伸をした。
目を擦りながら、あれえ? と寝ぼけた声をあげる。


「寝ちゃってたあ。この家、ほんとに気持ちいいわよねー」

「ふふ、ですねー」

「あ。みーちゃん、縁側で寝たでしょー? 床板の跡がついてるー」

「嘘!? まじすか!?」


ちょ! そんな間抜けな顔で加賀父と真面目な会話してたっつーの?
いや! 恥ずかしい! みっともない!


「つーか三津! なんで教えてくんないの!?」

「え、別によくない? あとでとれるんだし」

「そんな問題じゃないし! ああああ、はずかしいいー」


洗面所までダッシュして鏡を確認。
……まあ。クッキリと跡がついてること。


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