いつかの君と握手
「さあて、そろそろ帰る準備でもすっか」


あれから。
昼寝から目覚めたじいさんが井戸で冷やしておいたというスイカを切ってくれたので、
みんなで美味しく頂いた。
井戸汲んだという水を飲んでみたらば、これがまたすごく冷たくて甘かった。

いいなー。こんな水が飲み放題なのかー。田舎万歳だな。


「そうね。向こうに着くのが遅くなっちゃうし。
にしても、2人とも帰ってこないわねー」


柚葉さんが時計を見上げた。
あ、ほんとだ。あれからもう2時間も経ってる。


「祈がゴネてんじゃねーの? あいつ、頑固そうだしな」


確かに。
意思の強いあの子のことだから、素直に納得しそうにないよな。


「とにかく、帰り支度をして待ってましょ」

「そうだな」


と、会話してからまた1時間が過ぎた。


「なっげえなー」


ごろんと寝転がった三津が言った。

日も落ちかけていて、空を見ればオレンジ色に変わっていた。


「なにかあったのかなー?」

「どうなんでしょうね? 加賀父の実家の寺まで行くって言ってたから、向こうにいるはずなんですけど」

「向こうに車置いてるんだし、行ってみるか」

「そうですね。そうしましょうか」


なんとなく不安めいたものを感じながら、じいさんの家を後にすることにした。


「また来なさい。いつでも待っとるからの」

「はい、お世話になりました!」


出会いとは人が変わったように落ち着いたじいさんが見送りに出てきてくれた。
あたしを見て、悪戯っぽく笑う。


「美弥緒ちゃん、といったかの。あんたの言うこと、信じとるからの」

「はい、信じててください。あ、でも体調管理には気をつけてくださいよ。あんまりお酒を飲みすぎないように!」

「む、わかった。志津子に言われとるようで敵わんわい」

「9年後、また会いにきますからね。待っててください」

「なんと、9年後かい。そりゃまた長い。それまでは来てもらえんのかい」


じいさんがしょんぼりしたように肩を落とす。
うーん、こればっかりは早めてあげられんしなあ。


「みーちゃんは無理でも、オレたちが来るって。な?」


三津がじいさんの背中をぽんぽんと叩く。
じいさんは少しだけ笑顔をみせた。


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