いつかの君と握手
「へ? 風間さんと出かけたじゃないすか」

「いや……目を離した隙に、いなくなった……」

「うそ!?」


思わず辺りを見渡した。


「先生に電話したら、来てないっていうし。途中で会わなかったか!?」

「いや、会ってないです。いつ、いなくなったんですか?」

「30分ほど前だ。今、節ばあさんが寺の中を探してくれてるんだが、靴がない」

「じゃあ、外に行ってる可能性がありますね。じいさん家に行く途中で迷ったとか?」

「それはないですよ!」


寺から織部のじいさんの家までは一本道。
迷うような脇道はなかったはずだ。


「アタシもそう思う。どこかへ散歩……いや、一言もなくそんなことしないか」


柚葉さんの言葉に頷いた。
不用意に人を心配させるようなこと、あの子はしないはずだ。
となれば、わざと一人で出かけたってことになるけど……。


「祈と話し終わったとき、少し様子がおかしかったんだ。まだ納得していないんだろうとは思っていたんだけど。
もしかして」

「逃げ出した、ですか?」


加賀父の飲み込んだ言葉を三津が引き取った。
苦い顔つきで加賀父が息を吐いた。


「これから向こうに帰る、と言ったんだ。それが嫌だったんじゃないだろうか」


それは、ありえる。
行動力のあるイノリなら、やりかねない。


「探しましょう」


言うと、全員があたしを見た。


「見つからないように隠れているはずです。早くしないと暗くなる。そうなったら危険ですし、すぐに探しましょう」

「そう、ね。見つけにくくなるし、そうしましょ」


柚葉さんが傾いた太陽を仰いだ。


「30分かそこいらじゃそんなに遠くまで行けないだろ。あいつはオレたちと一緒で土地勘もないし。
とにかく手分けして探そうぜ」

「はい!」

「任せて! アタシ探し物みつけるの得意だから!」


「すなまいが、よろしく頼む」


加賀父が深く頭を下げた。


「そんなの別にいいんでやめてください。えーと、オレはじいさんの家の方向行ってみます。
風間さんは向こうへ。柚葉たちはついて行って、風間さんの指示で動け」

「わかった。なにかあったらケータイに連絡して」

「おう。じゃあ!」


言って、三津は駆け出していった。

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