いつかの君と握手
うーん、誰かを呼びに行って、一緒に行ったほうがいいかな。
慣れない場所は危険だったりするしな。

しかし周囲に人の気配はない。
イノリを探す声も聞こえないし。
戻るか? でも。


「あ」


ふと、イノリがハーフパンツ姿だったことを思い出した。
ホントにマムシなんかに噛み付かれちゃってたらどうしよう。


「あー。くそ」


メッセンジャーバッグから、小さな懐中電灯を取り出した。
元々はオリエンテーリング用のものだったんだけど、まさかこんな形で役に立つとはね。

カチリとスイッチを押して、電気をつける。


どうか無事にみつけられますよーに!
意を決して、ぼうぼうの草原に足を踏み入れた。



「イノリー! イノリー! ぶあっ!」


声をあげながら進んで行く。
木の枝を避けたつもりが、べろんと吊り下がった蔦が顔面にヒット。

うう、けっこう痛い……。

顔を撫で擦り、空を見上げた。
うあ。星、でちゃった。
完全に日が落ちたな。

うーん、このまま突き進んでいいのかね。
足元を見る。
イノリが踏んだ跡なんてものは、入ってすぐに見失っていた。
歩きやすいほうに進んだんじゃないかと勝手な判断で進んだものの、些か不安になってきた。

このままじゃあたしが迷子になってしまうんじゃないだろうか。


「とりあえず、一旦戻……ん?」


子どもの泣き声を聞いた気がした。
イノリ!?


「イノリ!? どこ! 返事しな!」

「…………! …………!」


やっぱり声がする。
耳を澄ませて、声の方向を探る。


「…………あっち!」


見極めた方向に向かって走りだした。


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