いつかの君と握手
「イノリー! イノリーっ! 返事!」

「…………!」


よし、方向は間違ってない。

しかしなんでこんな奥にまで来たんだ。
行く手の邪魔をする草を踏みつけ、それに隠れていた木の根に躓きつつ進む。

ぬあ、またも蔦が。
ええい、もう引きちぎってやる。


「おまえなんかこうだ! えい! ぶぎゃ!」


蔦を引っ張ると、思いのほか長く頑丈だったそれはずるりと伸び、ぼたりと頭に落下した。

痛い。
うう、怒りにまかせるとロクなことが起きない。


「……オ! ミャオ!」


あ! 今はっきりと聞こえた!


「イノリ!」


蔦に構ってる暇はないんだった。
払いのけて声のするほうを探った。


「イノリ! どこ!?」

「ミャオ! だめ、ストップ!」



足を踏み出しかけたところで、イノリの鋭い声がした。
それに驚いて、足をとめる。
バランスを崩しかけて、慌てて手近な木の幹にしがみついた。


「え、イノ……うわ、なんだこれ」


懐中電灯で足元を照らして、唖然とした。
すぱんと刀で切りおとしたかのように、地面が途切れていたのだ。
幹に手をかけてこわごわと下を覗く。


「ミャオ!」


暗がりから声がした。
小さな光で探ると、まぶしそうに目を顰めたイノリを見つけた。


「イノリ! よかった……。怪我はない?」

「それが……じつはそこから落ちちゃったんだ。それで足がいたくて動けなくて」

「え!?」


地面の一部に、土が削れた箇所があった。
ああ、ここからイノリは落ちたのか。

下までは約2mといったところか。
落ち方によっては、もしかしたら骨折しているかもしれないな。


「イノリ。そこでじっとしてな」


懐中電灯でイノリの周辺を確認する。
よし、いける。


「ミャオ!?」

「とう」


地面を蹴って、下に飛び降りた。

着地と同時に、両足首に鈍い痛みが走る。

むう、少し痩せたほうがいいか。こんなに負担がかかるとは。


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