いつかの君と握手
「……ちょっと休憩しよっか」


草むらにイノリをおろし、並んで座った。
イノリは夜空を楽しげに眺めている。

気づかれないように、肩をぐるぐると回した。
ふあー、やっぱり重いわ。肩痛ー。
早くどうにかしないと、あたしの体力が限界を迎えるかもしれん。

ふう、と胡坐をかく。
疲労した足首をそっと撫で擦った。

あ。星の位置で方角が分かるとか、聞いたことあるな。
って、星なんて北斗●拳のアレしか知らないんですけど。
それに、目指す方角も分かんないし。


「あ」


バッグの中に、お菓子とジュースが入っているのを思い出した。
昨日の晩、コンビニで三津に買ってもらった残りを入れっぱなしにしていたのだ。
よかったー、全部食べなくて。

ごそごそとあさると、封を切ったクッキーの箱と、半分ほど中身の残っているスポーツ飲料のペットボトルがあった。


「イノリ、はんぶんこしよ」

「うわ、お菓子だあ!」


チョコが少し溶けた、チョコチップクッキーを仲良く齧る。
カリカリとゆっくり食べて、ぬるくなったスポーツ飲料を流し込む。
うん、少し疲れがとれたかな。

一息ついたのち、時計としてしか機能を果たしていないケータイを取出し、時間を確認。
おえ。もう2時回ってんじゃん。

うーん、このまま無為に動き回るより、ここでじっとしているほうが得策かなあ。
日が昇れば行動しやすいしなあ。


…………あれ?
ちょっと待て。

何か忘れてる気がするんだが。

重要なことがあったような……。


「ぬわああああああああああああっ!」


7時45分!
7時45分にK駅に行かなくちゃいけなかったんだ!!

ちょ。ちょっと待てよ。
えーと、三津の運転でここまで何時間かかったっけ。

4時間……、か? いや、でも休憩挟んだしなあ。
でもとりあえず4時間だとして、7時45分にK駅に着くには最悪でも3時45分にはここを出なくてはいけないんだ。
ってことは、約2時間でここを抜け出さなきゃいけないのか。

おいおいおいおいおい。
既に数時間迷ってるんだけどー。
出られるのかよー。


「ミャ、ミャオ? どうかしたの?」


あわあわとうろたえていると、イノリが服の裾を引っ張った。
見上げる不安そうな顔に、う、と詰まる。

何て説明したらいいんでしょうか。

この子には、あたしのタイムスリップのことは秘密にしておきたいし。
うーん、うーん。


「あ、あのね、あたし、帰らなくちゃいけないのね」

「かえる?」


きょとんとして、小さく首を傾げる。
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