いつかの君と握手
「イノリ……」


ちょっぴり、いやだいぶ、嬉しかった。
そう言ってくれるほどの思いを抱いてくれることが。
そして、悲しかった。
だって、会えないって分かってることだもん。


「おれ、絶対にまたミャオに会いにいくよ。遠くても、絶対! 大人になったらどこにでもいけるんだからな!」

「イノリ……」


微かに、目尻に涙が滲んだ。イノリの熱に押されてしまった。
なんでこの子はこんなにもあたしになついてくれるんだ。
こんなにも素直に気持ちを表してくれるんだ。

情が、うつっちゃうじゃないか。


「……会えるよ」

「え?」


口が勝手に動いた。


「会えるよ。あたし、イノリが大きくなるの、待ってるよ」

「ほ、ほんと?」

「うん。でも、イノリがあたしよりも大きくなるまでは、どうしても会えないんだ。でも、イノリがそれでもいいって言うなら、きっと会えるよ」


言って、すぐに焦った。
ヤバい。言ってよかったのか、こういうこと。
柚葉さんの『未来を変えて死んだ人』の話がぐるぐると頭を回る。

い、いや! 死にたくない! まだ死にたくないの、あたし!
死んでもいいとかつい口にしちゃうけど、言葉のアヤだし、それって!


「それでもいいよ! おれ、早く大きくなるもん!」


と、イノリが不安を吹き飛ばすくらいの勢いで言った。


「ミャオくらい、すぐに追い抜いてやるよ。だから、もう会えないとか言うのはなしにしてよ!」

「……おっきくなったとき、『やっぱ会いたくなかった』とか言うのはダメだぞ?」

「言うわけないじゃん! ミャオこそ、言うなよ!」

「あたしは……」


ええと、会いたくなかった的なことは大澤に言ってない、よな?
記憶を辿る。
うん、言ってない、よな。
よし、約束してOK。


「うん、言わない。
あ、でもさあ、イノリが大きくなるころにはあたしはオバサンになってるかもしんないぞ。いいのか、それで」


ふと湧いた、からかいめいた気持ちで訊いてみた。
少年は、考え込むように顎に手をあてた。


「ええと、ミャオって年いくつだっけ?」

「じゅうご」

「えーと、おれは6さいだから、んーと、9さいうえ、かあ」


指を折って確認する。

さて、この早熟の男の子は何て言うだろうか、とわくわくしながら言葉を待った。


「……まあ、だいじょうぶかな」

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