いつかの君と握手
「は?」


に、と笑ったイノリは、


「だいじょうぶ。いまね、おばあちゃんになったミャオの顔を考えたんだけどね、やっぱり好きだなっておもったから」


「いや、あたしがおばあちゃんになってたら、さすがにあんたもおじさんだよ」


ばあちゃんくらいになれば、9歳差なんて大した差ではないのでは?
つーか、そんなに簡単にばあちゃんになんねーし。
仮に10年後としても、25だろ? 女としてはまだ発展途上、うなぎ上り中だろうが。


「あ、そっか。じゃあもっとだいじょうぶじゃん」


へへ、と笑って、イノリはあたしの顔を覗きこんだ。
その無邪気さに、思わず笑みが零れた。

それに、おばあちゃんになっても好きって、いいこと言うじゃないか。
いい口説き文句だと思うぞ。


「うそだよ。あたし、今のままでいるよ」

「ん? どういうこと?」

「イノリが同じくらいの年になるまで、待っててやる」

「ええ? そんなこと、できないよ」

「できるよ。じつはあたしさあ、ニンゲンじゃないんだ」

「え」


ひそひそ話をするように、そっと声をひそめて言った。


「イノリにだけ教えるヒミツだよ? あたし、ニンゲンじゃないのだ」


「ええ。にんげんじゃん」

「じーつーは、違うのだ。なので、簡単に年をとらないのだよ」


自信たっぷりに言うと、少年の顔つきが次第に変わってきた。
笑みが引っ込み。次に疑いの色が濃くなり、それから驚愕。


「ほ、ほんと?」

「うむ」

「にんげんじゃないなら、じゃあミャオはなんなの?」


ふむ。さて、なんと言おうか。
妖精? いや、分不相応ですよね。
幽霊? えー、こんな生活感のある幽霊ってどうよ。
妖怪? いやいやいや。化け猫呼ばわりされるきっかけが自分ってことになっちゃわね?


「……ね、」

「ね?」

「ねこの……精霊?」


はい、すべりました!
口にした瞬間に後悔しました!


「ぷ。ミャオっておもしろい」


失敗した、と眉間にシワと寄せたあたしと違い、くすくすとイノリが笑った。


「そんな話したらおれが怖がると思ったんでしょー? でも騙されないもんね」

「む」


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