いつかの君と握手
「ごめんなさい……、おれ、わがまま言った。ごめんなさい……」


ぐ、と体に力を入れるのがわかり、それからイノリは涙を零さずにぺこんと頭を下げた。


「もうこんなことしない。ぜったいにしないよ」

「祈……」


頭を上げないイノリを、加賀父が抱きしめた。
がしがしと頭を撫でる。


「無事でよかった。本当によかった。ごめんな。こんなことさせてごめんな」

「ううん、いいんだ。おれ、父さんたちの考えてること、わかるようになるよ。そういう大人になるよ」


イノリの言葉に加賀父が動きを止める。


「わかるようになるから。だからもうこんなことしないよ」

「……そっか。そっか……」


加賀父の肩に顔を埋めたイノリの肩が震えていた。
でも、泣き声をあげることはなかった。


「……おう、おう。見つかった、うん、みーちゃんも一緒。
……そう、みんなに伝えて。……うん、そうそう。じゃあよろしく」


柚葉さんにだろうか、ケータイで連絡を済ませて、三津が立ち上がった。
あたしに手を差し出す。


「ほら、帰ろうぜ、みーちゃん」

「うん。……っ!」


三津の手を掴んで立ち上がる。
少しよろけたあたしを、三津は見逃さなかった。


「みーちゃん、お座り」

「ちょ、イヌみたいな言い方しないでくださいます?」

「いいから、お座り」


強く言われて、しぶしぶ座った。


「ちょっとシツレイ」

「あ。女子高生の生足を。柚葉さんに言いつけますよ!」

「うるさい。あ、ほら」

「ぎ……っ!」


三津の手が無遠慮に左足首を掴んだ。
途端、激痛が走って顔をしかめた。


「ちょ、三津……、容赦ないすよ、それ」

「ごまかそうとするからだろーが。ほれ」

「ぎゃ! 放……せっ!

「三津、どうした?」


足首の痛みに悶絶するあたしに気付いたのか、加賀父が訊いた。


「みーちゃんも足首やっちまってますね。腫れてます」

「ミャオ!?」


加賀父に抱きついていたイノリが飛びついてきた。

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