いつかの君と握手
しかしそんなことをいちいち口にしなくてもよいのだ。
用意はすっかり終えているわ、という顔をして頷いておいた。

琴音は安心したようににこりと笑い、次に少し離れた場所に立っていた大澤に声をかけた。


「大澤くんに頼んだのは、じゃがいもににんじん、たまねぎに固形ブイヨンだよね。ごめんね、重たいものばかりだね」

「いや、いい。用意はできてる」

「そっか。じゃあ、大丈夫だね。ミャオちゃん、食料準備は完璧です」

「うむ、そうかね」


確認を終えた琴音に、重々しく答えてみる。
ってすんませーん、調子のりました。


「確認すんだー?」


ひょこりと穂積が顔をだした。
学級委員の穂積は各班のチェックもしないといけないので、今の話し合いにいなかったのだ。


「すんだ。大丈夫だと琴音さまが仰ってます」

「了解。ごめんね、オレほとんどこっちにいなくて」



申し訳なさそうに言う穂積に、いいよいいよと首を振る。
学級委員っていうのは大変そうだしねー。


「当日は班長のほうが忙しいと思うよ。頑張ってね、ミャオ」

「あー、うん。まあぼちぼち」


へら、と笑おうとしたら、ガッターンと大きな音がして、驚いて見れば大澤が近くの椅子を蹴倒していた。大澤の一番近くにいた神楽が怯えたように顔を強張らせる。


「ど、どうしたの? 大澤くん?」

「……んで」

「え?」

「なんで、その名前そいつが呼ぶわけ?」


き、と顔を上げた大澤は酷く怒った顔をしていた。
声も低く、ドスがきいている。
つーか、なんであたしを睨んでやがるんだ。


「名前って、何が?」


どうやらあたしに怒りの矛先が向けられているようだ。
なのでとりあえず、訊いてみた。


「ミャオって、今こいつ呼んだだろ」

「は? ああ、うん、そうだね」


だから何だっつの。
穂積を指差した大澤に頷く。


「あたしも、ミャオちゃんって呼んでるよお?」


不思議そうに琴音が言い、だよねえ、と二人で視線を合わせる。


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