いつかの君と握手
「よっしゃ、行くか。おい、お前たちは早く構内へ移動しろ。茅ヶ崎のことは心配しなくていいから」


気付けば、周囲にはあたしの所属する3B班のメンバーしかいなかった。


「ミャオちゃーん……」


琴音が憐憫の眼差しであたしを見つめる。
助けて、琴音ー!


「とりあえず田中が班長代理をやっとけ。行くか、茅ヶ崎。よいしょ、と」

「ぎゃ!」


森じいは米俵でも運ぶがごとく、あたしを肩に担いだ。
おい! 完全に荷物扱いじゃねーか!
いやでも抱っこやおんぶというのも勘弁してもらいたい。

じゃなく! 罰ゲームはいやぁ!


「こ、琴音……、たすけ……」

「遅れたら大変だよ! 行こう、穂積。ほら、みんなも!」


悠美が仕切るように大きな声を上げた。


「大澤くんも、大変だったね? 猫娘には先生がついてるんだし、もう安心だよね。
じゃあ行こっか。ほらほら!」


神楽が後押しするかのように声をかけ、傍にいた琴音の背中を押す。
その様子を見ていた穂積がため息を一つついた。


「そうだな、オレたちが遅れたらみんなの迷惑になるし、行こう。
じゃあ、美弥緒、あとでね?」

「ミャ、ミャオちゃん! 後でねぇー」

「こ、琴音ぇ……!」


無情にも、みんな慌しく行ってしまった。
ああ、罰ゲーム決定なのね……。
担がれたまま、脱力した。

ああ、森じいの真紅のジャージが目に痛い。
じじいなんだし、もう少し落ち着いた色を身につけろよ、このやろう。


「茅ヶ崎の荷物は……と。お、これか。じゃあ、川上先生、他の先生方にも茅ヶ崎のことを伝えておいてください」

「はいはい。さ、アタシたちも行きましょ、大澤くん」


川上先生が声をかけた。
ん? 大澤?

真っ赤なジャージの背中から、ちらりと顔を上げると、大澤はまだ残っていた。
視線が合うと、


「大丈夫か?」


とぼそりと訊いた。
しかしすぐに、つんと顔を背ける。

もしかして、心配してくれてる?
唇を曲げた横顔は変わらず不機嫌そうで、でも、あたしが返事をせずにいると、窺うようにちらりと視線を寄越した。
目が合うと、小さく舌打ちされたが、思わずくすりと笑った。


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