いつかの君と握手
――――疲れた。
宿泊施設の、3組女子に割り当てられた部屋には、あたし一人きりだった。
だだっ広い畳敷きの部屋には、みんなの荷物と、積み重なった布団しかない。
布団の山から一組ひっぱりだして、ごろんと寝転ぶ。
木目の天井を眺めながら、全身でため息をついた。
あれから森じいに整形外科に連行され、足首にがっちりとテーピングを巻かれた。
プロの仕事というのはさすがで、体重を思いっきりかけない限りは、痛まなくなった。
鎮痛剤や炎症止めも処方してもらったし、あとは時間が解決してくれることだろう。
うん、ヨカッタネ!
しかしその後の、オヤジたちとの密室移動が、辛かった。
今年クリ高(クリスチーネ豪陀高校の略称)に移動してきたという信楽校長(57)は、生徒といち早く親しくなりたいという元熱血教師だそうで、
ハンドルを握る森じい相手に、理想の教育論を延々とぶちかました。
それは次第に熱を帯びてきて、前任校での思い出話(卒業生から、己の胸像をプレゼントされたのだそうだ)辺りでとうとう号泣。
教師たる喜びとやらで男泣きに泣いて、車内の雰囲気を凍結させたのだった。
自分の父親よりも年上のおっさんの涙なんざ、見たくねえ。
しかも、あたしのことなんて放っておいてくれたらいいのに、
『校内行事に参加する意義。そして怪我をおしてまでも参加する君のひたむきさ』
についても語り始め、しかもそれに相槌を求め、うたた寝の一つもさせてくれなかった。
一晩中森を彷徨っていた疲れに加え、処方された薬の副作用もあってふらふらだったのにも拘らず、校長の熱弁は止むことを知らず。
ようやく彼も落ち着いたかな? という辺りで目的地に到着した。
着いたときには、生徒達は既に近隣にある森林ハイキングコースへとオリエンテーリングに出かけており(朝は雨が激しく降っていたというのにこちらは雲ひとつない快晴で、問題なく野外での予定を消化できるのだそうだ)、
留守居役の先生が一人残っているのみだった。
張り切り屋さんの校長はすぐに生徒達の集団を追うと言い出し、うそー、これからまた移動かよ、とげんなり。
だいたい森林ハイキングなんざ、昨晩濃いやつを経験したばっかりなんだ。
もう満腹状態、消化不良起こしそうなんですけどー、と嘆いていたら、天の助け、いや森じいの助けが入った。
足の悪いあたしにまでそれをさせるのは酷だろう。
部屋に行って休んでいてよし、と言ってくれたのだ。
うう、森じいって要所要所は役立つんだよなあ。
ありがたやありがたや。
あたしと同じく精神が疲労している様子だったが、上司である校長に大人しくついて行った森じいの背中を思い出し、両手を合わせて拝んでおいた。
もうそろそろ、合流しているころだろうか。
校長のあの様子だと、さぞや張り切っていることだろう。
振り回されているだろう森じいのことを思うと、少し可哀相に思うのだけど、まあ、あたしが気に病んでも仕方ないことだ。
とりあえず、森じいの好意を有難く頂戴して寝るか!
と目をぎゅ、と閉じたところで、きゅるるるる、と盛大にお腹が鳴った。
「……おなかすいた」
そういや、お昼ご飯食べてなかったんだ。
校長ってば休憩入れずに演説するんだもんなあ。
お弁当開くタイミングがなかったんだ。
しかも食事といえば柚葉さんのおにぎりを1個食べただけだったし。
お腹すいて当たり前か。
てか、お弁当は加賀父手作りなんだっけ。
食べずしてどうする!
宿泊施設の、3組女子に割り当てられた部屋には、あたし一人きりだった。
だだっ広い畳敷きの部屋には、みんなの荷物と、積み重なった布団しかない。
布団の山から一組ひっぱりだして、ごろんと寝転ぶ。
木目の天井を眺めながら、全身でため息をついた。
あれから森じいに整形外科に連行され、足首にがっちりとテーピングを巻かれた。
プロの仕事というのはさすがで、体重を思いっきりかけない限りは、痛まなくなった。
鎮痛剤や炎症止めも処方してもらったし、あとは時間が解決してくれることだろう。
うん、ヨカッタネ!
しかしその後の、オヤジたちとの密室移動が、辛かった。
今年クリ高(クリスチーネ豪陀高校の略称)に移動してきたという信楽校長(57)は、生徒といち早く親しくなりたいという元熱血教師だそうで、
ハンドルを握る森じい相手に、理想の教育論を延々とぶちかました。
それは次第に熱を帯びてきて、前任校での思い出話(卒業生から、己の胸像をプレゼントされたのだそうだ)辺りでとうとう号泣。
教師たる喜びとやらで男泣きに泣いて、車内の雰囲気を凍結させたのだった。
自分の父親よりも年上のおっさんの涙なんざ、見たくねえ。
しかも、あたしのことなんて放っておいてくれたらいいのに、
『校内行事に参加する意義。そして怪我をおしてまでも参加する君のひたむきさ』
についても語り始め、しかもそれに相槌を求め、うたた寝の一つもさせてくれなかった。
一晩中森を彷徨っていた疲れに加え、処方された薬の副作用もあってふらふらだったのにも拘らず、校長の熱弁は止むことを知らず。
ようやく彼も落ち着いたかな? という辺りで目的地に到着した。
着いたときには、生徒達は既に近隣にある森林ハイキングコースへとオリエンテーリングに出かけており(朝は雨が激しく降っていたというのにこちらは雲ひとつない快晴で、問題なく野外での予定を消化できるのだそうだ)、
留守居役の先生が一人残っているのみだった。
張り切り屋さんの校長はすぐに生徒達の集団を追うと言い出し、うそー、これからまた移動かよ、とげんなり。
だいたい森林ハイキングなんざ、昨晩濃いやつを経験したばっかりなんだ。
もう満腹状態、消化不良起こしそうなんですけどー、と嘆いていたら、天の助け、いや森じいの助けが入った。
足の悪いあたしにまでそれをさせるのは酷だろう。
部屋に行って休んでいてよし、と言ってくれたのだ。
うう、森じいって要所要所は役立つんだよなあ。
ありがたやありがたや。
あたしと同じく精神が疲労している様子だったが、上司である校長に大人しくついて行った森じいの背中を思い出し、両手を合わせて拝んでおいた。
もうそろそろ、合流しているころだろうか。
校長のあの様子だと、さぞや張り切っていることだろう。
振り回されているだろう森じいのことを思うと、少し可哀相に思うのだけど、まあ、あたしが気に病んでも仕方ないことだ。
とりあえず、森じいの好意を有難く頂戴して寝るか!
と目をぎゅ、と閉じたところで、きゅるるるる、と盛大にお腹が鳴った。
「……おなかすいた」
そういや、お昼ご飯食べてなかったんだ。
校長ってば休憩入れずに演説するんだもんなあ。
お弁当開くタイミングがなかったんだ。
しかも食事といえば柚葉さんのおにぎりを1個食べただけだったし。
お腹すいて当たり前か。
てか、お弁当は加賀父手作りなんだっけ。
食べずしてどうする!