いつかの君と握手
「美弥緒、洗いものを片付けるの早いね」
「そう? でもこれってなーんにもなんないらしいよ」
「はは。オレはそんなことないと思うけど。皿洗いだって、料理に欠かせない作業だしね」
「おお、フォローありがと」
現在、夕食の支度中。
そう、生徒たちの手で食事を全て賄うという、例のアレだ。
野菜を刻んだり、味付けしたり、なんて高等技術は持ち合わせていないので、あたしはひたすらに人間食器洗い機としての役割を果たしていた。
調理に関しては、これしか能がないしね!
しかし、驚いた。
穂積も、なんとイノリも、さっさかと野菜を下ごしらえしてしまったのだ。
その手つきたるや鮮やかなもので、ああ、日常的に料理をしているのだな、と理解するには充分なものだった。
えー、すげえ。なに、この2人。
台所は女の職場、という信念を持っている我が家の男性陣は、包丁なんて握ったこともないのに。
じいちゃんなんか、インスタントラーメンも作れないのにー。
孝三にしても、作れるのは目玉焼きだけだしな。
って、同じレベルのあたしが言うのもなんだが。
しかし、それは大層時代遅れな考えであるらしい。
玉ねぎを見事なみじん切りにしてしまった穂積を熱心に誉めていたら、たまたま近くにいた竹内先生(2組担任で、家庭科教師)にそれを聞かれており。
『今では男も料理ができて当たり前の時代だって言葉、あなたも聞いたことがあるでしょう?
よおく、それを反芻してみなさい。男も。「も!」よ? 女は当然、できることが前提の言葉なのね。
感激してないで、あなたもこれくらいできなくちゃダメなんだからね。皿洗いだけじゃ、なーんにもなんないのよ』
などと小言をくらってしまった。
うーむ、家庭科の調理実習で、えらく分厚いジャガイモの皮を作成してしまったあたしを、竹内先生は忘れていないらしい。
勿体無い精神のもとに、きちんと美味しく頂いたので問題ないと思ったんだけどな。
油で焼けば大概は美味しくなるもんだ。うん。
しかし、あたしもそろそろ幸子に料理の一つでも教えてもらったほうがいいのかなー。
琴音たちのようなオサレな名前のものは無理だが、とりあえず味噌汁くらいは、うん。
あ、あと、カレーだな、カレー。
小学校のキャンプも、中学校の校外実習も、全て皿洗いに没頭してきたあたしは、カレーすら作れないのだ、イエイ☆
って、全然自慢になんないけどー。
「そういえば、足、平気? 座ってたら?」
調理器具も一通り洗い終えたころ、穂積が手近にあった椅子を押しやってくれた。
「神がかり的なテーピングのお陰で平気。でも、ありがとう」
無理はするな、とお医者さんに念押しされているのだ。
安静にしないと、治りが悪いですよー、と。
これ以上悪くしたくないし、有難く座っておこうっと。
「痛むのか?」
よいしょ、と腰を下ろすと、新たな声がかかり。
見れば意外に近くにいたイノリが眉根を寄せていた。
「今は平気だけど、無理はよくないかなって思って」
「そうか」
ふ、と近寄ってきたかと思えば、あたしの足元で膝をつく。
なにをする。と言う間もなく、足首に触れた。
「そう? でもこれってなーんにもなんないらしいよ」
「はは。オレはそんなことないと思うけど。皿洗いだって、料理に欠かせない作業だしね」
「おお、フォローありがと」
現在、夕食の支度中。
そう、生徒たちの手で食事を全て賄うという、例のアレだ。
野菜を刻んだり、味付けしたり、なんて高等技術は持ち合わせていないので、あたしはひたすらに人間食器洗い機としての役割を果たしていた。
調理に関しては、これしか能がないしね!
しかし、驚いた。
穂積も、なんとイノリも、さっさかと野菜を下ごしらえしてしまったのだ。
その手つきたるや鮮やかなもので、ああ、日常的に料理をしているのだな、と理解するには充分なものだった。
えー、すげえ。なに、この2人。
台所は女の職場、という信念を持っている我が家の男性陣は、包丁なんて握ったこともないのに。
じいちゃんなんか、インスタントラーメンも作れないのにー。
孝三にしても、作れるのは目玉焼きだけだしな。
って、同じレベルのあたしが言うのもなんだが。
しかし、それは大層時代遅れな考えであるらしい。
玉ねぎを見事なみじん切りにしてしまった穂積を熱心に誉めていたら、たまたま近くにいた竹内先生(2組担任で、家庭科教師)にそれを聞かれており。
『今では男も料理ができて当たり前の時代だって言葉、あなたも聞いたことがあるでしょう?
よおく、それを反芻してみなさい。男も。「も!」よ? 女は当然、できることが前提の言葉なのね。
感激してないで、あなたもこれくらいできなくちゃダメなんだからね。皿洗いだけじゃ、なーんにもなんないのよ』
などと小言をくらってしまった。
うーむ、家庭科の調理実習で、えらく分厚いジャガイモの皮を作成してしまったあたしを、竹内先生は忘れていないらしい。
勿体無い精神のもとに、きちんと美味しく頂いたので問題ないと思ったんだけどな。
油で焼けば大概は美味しくなるもんだ。うん。
しかし、あたしもそろそろ幸子に料理の一つでも教えてもらったほうがいいのかなー。
琴音たちのようなオサレな名前のものは無理だが、とりあえず味噌汁くらいは、うん。
あ、あと、カレーだな、カレー。
小学校のキャンプも、中学校の校外実習も、全て皿洗いに没頭してきたあたしは、カレーすら作れないのだ、イエイ☆
って、全然自慢になんないけどー。
「そういえば、足、平気? 座ってたら?」
調理器具も一通り洗い終えたころ、穂積が手近にあった椅子を押しやってくれた。
「神がかり的なテーピングのお陰で平気。でも、ありがとう」
無理はするな、とお医者さんに念押しされているのだ。
安静にしないと、治りが悪いですよー、と。
これ以上悪くしたくないし、有難く座っておこうっと。
「痛むのか?」
よいしょ、と腰を下ろすと、新たな声がかかり。
見れば意外に近くにいたイノリが眉根を寄せていた。
「今は平気だけど、無理はよくないかなって思って」
「そうか」
ふ、と近寄ってきたかと思えば、あたしの足元で膝をつく。
なにをする。と言う間もなく、足首に触れた。