いつかの君と握手
「美弥緒?」

「へ? ああ、ごめん。周囲にもいないかな」

「ふう、ん」


考え込むように顎に手をあてた穂積だったが、ふっとあたしに視線を寄越した。
その眼差しに、さっきまでの穏やかな笑みが霧散していることに気付く。


「なに? 穂積」

「じゃあさ、オレなんてどうかな?」

「は?」

「好きになってみない? オレのこと」


いつもより低い声音は、彼が真剣だということだろうか。
いやでも待て。
なんつった、今。


「え、えーと、どういうことかな?」

「オレのこと、好きになってみない? って言ったんだよ。
欲しくなったんだ、美弥緒の気持ちが」


穂積を好きになる?
あたしの気持ちが欲しい?

冗談?

いやでも目の前の穂積にはからかいめいた空気はない。
どうやら本気で言ってるらしいと感じ取ったあたしだが、だからといってハイそうですかと納得はできない。


「な、なんで?」


訊くと、至極当たり前といった感じで


「誰かの気持ちを欲しいと願うきっかけなんて、突然訪れるものなんだよ」


と言われた。

いやいやいや、全然わかんねえ。
突然すぎだろ。


「え、えーと。前に言ってたアレ? 色んな味が知りたい的な?
でもあたしなんて、悪食にも程があると思うけどなー、あはは」


こういう事態には全然慣れていないので、どうしていいのか分からない。
とりあえず笑ってごまかしてみた。


「確かに、美弥緒みたいなタイプは今まで付き合ったことがなかったかな」


うん、と穂積が頷いた。


「だから気になったのかもしれない、それは否定しないよ」

「えーと、結局物珍しいってことだよね? でもあたしって別段面白い女じゃないよ」

「そういうことを口にすること自体、面白いと思うけどな」


ようやくくすりと笑ってみせて、しかし顔を引き締めて穂積は言った。


「でも、物珍しさだけでこういうこと言ってるんじゃないよ。美弥緒にすごく惹かれたんだ」

「な、なんで? どうして?」


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