いつかの君と握手
疑問符ばかりが口をつく。
穂積がそんなことを言いだした理由が分からない。


「なんで、って。好きになるのに理由っている?」

「全く理由がない、なんてこともないよね?」


穂積とクラスメイトになって早3ヶ月。今更一目ぼれなんてこともないだろう。
何かしらのきっかけがあってもよさそうなものだ。

そう言うと穂積は困ったように頬を掻いた。


「結構突っ込んで訊くんだね。そういうの、確認しないとダメ?」

「ダメってことはないけど、でも気になるでしょ」

「冷静だね、美弥緒は」

「冷静なんかじゃないよ。頭ん中じゃのたうち回ってるよ」

「ぷ。変な言い方だね。でも、そうは見えないな」


と、穂積はあたしに顔を近づけた。
くん、と寄った綺麗な顔に思わずのけぞる。
うわ、目の中にあたしがいる。吐息が顔にかかる!


「な、なに?」


顔、近すぎだろ。こんなのって馴れないんだから、緊張しちゃうから止めてよ。
おどおどと訊くと、じい、とあたしの顔を見ていた穂積が眉根をきゅっと寄せた。
不愉快そうに唇を尖らせる。


「うーん、やっぱりこれじゃダメか」

「な、なにが?」

「いや。別に」


ふい、と離れて、穂積は唇に笑みを浮かべた。


「理由は、言わないでおくよ」

「へ?」

「まだヒミツにしとく。でも、しっかり頭に刻んでおいて。オレは美弥緒の気持ちが欲しいんだってこと」

「は、はひ?」

「じゃあ、オレも手伝ってくるかな」


唖然としたあたしを置いて、穂積は去って行った。

な、なんだったんだ、今の。

さっきまでの穂積との会話を反芻する。
何度繰り返してみても、意図が掴めない。
なんで急にあんなこと言うわけ?
先日まで、全然そんなそぶりがなかったのに。

神楽と談笑しながら鍋の中身をよそう姿を追う。
ふと視線が合うと、にっこりと笑みを返された。

それに曖昧に笑い返していると、その前にすいと人が立ち、見ればおたまを手にしたイノリで。
あたしと穂積を見比べてあからさまに顔をしかめた。

へらりと笑ってみればぷいと逸らされ、しかし再びこちらを見たかと思えば眉間にシワを刻む。



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