いつかの君と握手
おいおいおい、お前まで一体何なんだ。

二人から視線を逸らすように、背中を向けた。
シンクに寄りかかり、ため息を一つつく。

うーむ、よく分からん。
穂積の真意も、イノリの心境も。
どうしてこんなに一気に状況が変わったんだ。

この間まで比較的平和な高校生活を送ってきたはずなのに、男の子のことで頭を悩ます日が来るとは、人生って本当に不思議。

だいたい、穂積があたしって、なんの冗談だ。
もっとかわいくて女の子らしい、ハイスペックな女子がいっぱいいるだろうに、何故にあたし?
穂積なら選びたい放題でしょ。
さっきの話じゃないけど、たまには毛色の違ったものを、みたいな感じなのかな。
いやでも、そういう軽い様子は受けなかったんだよなー。


「うーむ……」

「ミャオちゃーん! ご飯できたよー!」


ぼんやりしてる間に、食事の支度ができたらしい。
琴音の声に我に返った。


「あ、うん。すぐ行くー」


そうだ。後で琴音に相談してみよう。

タイムスリップのことは、言っても信じてもらえないだろうな。
琴音ってSFやファンタジーの類が苦手だし、科学で証明できないものは頭から否定する性質だからね。

とりあえず穂積のことを聞いてもらおう。
うん、琴音ならきっと的確なアドバイスをくれるだろう。

となれば、早く食事を終えて琴音と話さなくては。
立ち上がり、片足を心持ち庇うようにしながら歩き出した。

途端、イノリと穂積がばたばたとやってきてあたしの腕を掴んだ。


「な、なに?」

「ん? 歩くのが辛いかなって思って。オレの腕につかまって?」

「無理しないほうがいい。ここ掴んでろ」


両脇を抱えられるように二人に挟まれた。
ちょ。なんだこれ。


「あ、あの、自力で歩けますけど」

「いいからいいから」

「……田中、邪魔」


有無を言わさず連行される。
なんなんだよ、おまえら。
二人を見上げるが、穂積は笑みを返すだけで、イノリなぞは何故か睨んできやがった。


離せよ。目立ちたくないんだよ、あたしは!
そっと辺りを見渡せば、そこかしこにギラついた視線を感じる。


「怪我、誰でもいいから代わって……」


小さなあたしの呟きは、両脇にいる二人にも聞こえなかったようだ。



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