いつかの君と握手
まるっと納得した。
そうか、そういうことかー。

そういや、穂積ってイノリを意識してた、みたいなこと言ってたっけ。
そっかそっか。今朝の一件でイノリがあたしのことを好きだとかそういう勘違いをして、それでああいうこと言ったわけか。


「やー、そうかー。別にあいつとはそんな関係じゃないのにな? あはは」

「へ? ミャオちゃん、怒らないの?」


すっきりして大きな声で笑うあたしに、琴音が不思議そうに言った。


「へ? 何で怒るのさ?」

「だって、男の意地みたいなもので告白された、なんて嫌でしょ?」

「別に? むしろ分かりやすくていいと思うけど。好きだとか言われるより納得できる」

「もお、ミャオちゃんてば……」


呆れた、と琴音は肩を竦めた。

だって本当のことだしな。
いや、ダシにされるというのは嫌だけどさ。
でもそれって穂積の見当違いなわけだし、だいたいあたしは穂積の言ったことを最初から鵜呑みにして信じてたってわけでもないし。


「とにかく、穂積に勘違いだよって教えてやろ。早く分かったほうがいいだろ」

「ちょっと! それはダメだよ!」


好意で言ったつもりだったのに、ぶんぶんと首を振って否定された。


「なんで?」

「だって、穂積くんの気持ちが本当だったら傷つけちゃうよ!」

「ええー。それはないって」

「わかんないじゃん、そんなの! 本気で告白したかもしれないのに、裏があるんでしょ?なんて言われたら悲しいよお!」


琴音がいつになく強い口調で言う。


「穂積くんが大澤くんへの対抗意識でそういう発言をしたっていうことが確定するまでは、絶対に言っちゃダメだよ?
分かった?」


確定するまで、も何もそれ以外に理由はないだろうに。
琴音ってば本気で穂積の言ったことを信じてるんだろうか。


「んー……まあ、了解しました」


反論は許さない、といった様子の琴音に大人しく従い、しぶしぶ頷いた。


「よろしい。で、穂積くんの気持ちがちゃんと分かったときはまた相談してね?」

「うん、そうする。あ、そうだ」


こくんと頷いて、これから約束があったことを思い出した。


「自由時間さあ、ちょっと用事があるんだ。待たせたら悪いから、早めにお風呂上がるわ」


琴音のお陰で穂積の問題は解決したも同然。
次はイノリの問題だよなー。
うーん、何から話そう。
よいしょ、と立ち上がったあたしを見上げて、琴音がぷ、と噴きだした。


「どうせ鳴沢様でしょお? こんなとこに来ても観るの?」


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