いつかの君と握手
机に伏して脱力したままのあたしの頭を、琴音がよしよしと撫でてくれる。


「琴音ー、これってある種のいじめじゃない? あいつのせいで変なあだ名つけられるしさー。今日は公開処刑みたいな目に合うしさー」

「あはは。公開処刑って、なにそれ」


「さっきはごめんね」


ふいに琴音と違う声がして、顔を上げると穂積が立っていた。


「大澤が変なこと言うから、少しからかっただけだったんだ。結果、美弥緒が嫌な思いしただろ? 考えなしでごめん」

「あ、いやいや、もういいって。さっきも謝ってもらったしさ」


ぺこんと頭を下げられて、慌てて体を起こす。
一回謝ってもらえただけでもう十分なんで。


「もともとは大澤の言うことが意味不明なんだし」

「大澤かあ。あいつ、美弥緒にこだわってるんだよなあ」


ふむ、と穂積が腕を組んだ。


「いつも美弥緒のことを見てるしね。さっき他の奴に聞いたけど、入学式のときもゴタゴタしたんだって?」

「あー、ほんの少し話しただけなんだけどね。って、穂積知ってたの?」


大澤があたしを見てること、知ってるのは琴音くらいだと思ってた。
穂積はひょいと肩を竦めて言った。


「なんとなくね。大澤が真剣な顔してるときはさ、大抵近くに美弥緒がいるからさ」


ほうほう、そうなのか。
やだ、もしかして他にも気がついてる人いるのかな。
見つめあってるとかいうスイートなことじゃなくて、睨み合ってるんですよー。あれは。


「まあ、甘い感じじゃなかったから、違和感あったんだけどね」


穂積、偉い。
空気の色をちゃんと見てるね。
素晴らしい観察力だね。


「大澤はさて置いて、美弥緒の大澤への視線、ギラギラしてるもんねー」


ああ、そう。そういうこと。
やだ、はずかしー。
酷い顔してたって自覚は、あるんだってば。


「何かね、ミャオちゃんのことを、昔から知ってるそぶりなんだよねえ」

「へえ。そういえば、そんなこと言ってたね。で、美弥緒は大澤を知ってるの?」

「知らない。記憶にないんだ。それに大澤の話だと、あたしがこっちにいない時の話みたいだから、会ってるはずないんだよね」

「でも、大澤くんは納得してないんだよねえ」

「ふうん、何だか、面白いなあ」


くすくすと穂積が笑った。


「面白いって、穂積もヒトゴトだよねー。もう」

「ああ、いやごめん。面白いっていうのはさ、大澤が人に執着してることが、だよ」

「は?」


どういうこと? と首を傾げたあたしと琴音に、穂積は笑みを浮かべたまま説明してくれた。
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