いつかの君と握手
「そ、そういうこと言うの、もう止めてくれない? 免疫ないんだから、あたし」


今更見栄を張っても仕方ない。
馴れてないのだ、こういうことには。
赤面しているのを自覚しつつ、少しつっかえながら告げた。


「ふうん、そっか」


ふ、と笑いを収めて、イノリは考えるように顔を逸らした。


「あの時、男はいないって言ってたもんな。そっか、あれは現在のことってことでいいのか」

「な、なに?」

「別に」


イノリはまだ何か考えているようだった。
この隙に少しでも気持ちを落ち着けておこう、とあたしはこっそりと深呼吸した。

やべえ、心臓がそろそろ限界かも。
つーか、何なんだ、この状況。
タイムスリップ云々の話をするだけのはずだったのに、どうして好きだのなんだのということを言われているのだ。

だいたい、どうして9年間好きだった、なんて言うわけ?
こんなに綺麗な顔してるのに、モテ人生歩んできただろうに、どうしてあたしなんかに好きを連呼する。
今からでもいいから、『嘘でしたー、あははー☆』とか言ってくれないかな。
信じられなさすぎて、頭がどうにかなってしまいそうだ。


「ミャオ」

「っ!? は、はいぃ?」


やべ、声が裏返った。
びくりとなりながら、イノリを見上げる。


「な、なんだ?」

「…………、こっち」


いきなりぐいと腕を掴まれて、気付いたときにはイノリの胸元に顔が押し付けられていた。
苦しいくらいに抱きしめられる。

ぎにゃー!?
なななななななななななんで!?
どういう流れでこんな状態に突入するの!?


「ちょ、ちょっ!? イノリ!?」

「……もう、消えないよな?」

「は!? は!?」

「もういなくなったりしないよな? 俺のこと知らないなんて言わないよな!?」

「あ、あの、離してっ」


ばたばたともがくのだが、抱きとめている腕は一向に緩んでくれない。


「いなくならないよな? 知らないなんて二度と言わないよな!?」


返事をするまでは離す気はないらしい。
このままじゃ心臓発作で死ぬ、あたし。


「い、いなくならない! 知らないなんて言わないから!」


だから離してえ!
もう許してえ!


「それが聞きたかった」


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