いつかの君と握手
「みーちゃんが本当にクリ高にいるのかとか、元気にしてるのかとか、知りたいことはいっぱいあるでしょ。アタシたちだって、早くみーちゃんに会いたいのを我慢してたんだし、ちょっと様子を探りたいな、ってー」


悪びれず、当然のことよ、と笑う。


「祈くんね、入学式の日なんか、すごかったのよー。

『ミャオそっくり、というか絶対本人だって思う子がいるんだけど、俺を知らないって言うんだ』

なんてしょんぼりしてたかと思えば、

『訳わかんねー!!』なんて叫んでさ」


……そんなことがあったのか、と唖然とするあたしを尻目に、柚葉さんは続けた。


「あとちょっとの辛抱よ、って言ってあげたかったけど、それで未来が変わっちゃったら怖いじゃない?
ヒジリと2人で悶々してたのよね。祈くんがすごく凹んでるのに、適当なことしか言えないんだもの。
でも一番困ったのは、『三津さんたちも、一回ミャオを見てくれよ!』なんて頼まれたことかな。
断りきれなくって、ヒジリと2人でコテコテに変装してクリ高までみーちゃんを見に行ったのよ」

「ぬあ!? 来たんですか!?」


いつ!? 当たり前だけど、知らんかったー!


「5月の連休明け、くらいだったかなあ。その頃ってもうお腹が大きかったから、こそこそ見るのに苦労したのよ。でも、陰からでもみーちゃんに会えて嬉しかったけどね」


なんと……。
気付かぬ間に2人に見られてたとは。
アホ面下げてたんじゃないだろうか。


「祈くんには、離れて見たからはっきりとわかんないって言ったのよ。あ、いやヒジリはみーちゃんのほうがもっとかわいかった、とか何とか言ってたのかな?
まあ、どうにかごまかしたんだけど、納得してくれなくて。

そしたらさ、祈くんは今度は一心さんを呼ぼうとしたのね」

「え!? 加賀父まで来てたんですか!?」

「ううん、あの人は、寺が忙しいからって言って逃げたんだけどね」


あー。要領よさそうだもんね、あの方。
うんうん、と頷いた。


「だからさ、祈くんが待ち望んでたみーちゃんに会えたことって、傍で見ていたアタシたちにとってはすごく嬉しいことなのよ。
あんなに待ったんだもの。
それに、気持ちまで伝えられたって言うなら、尚のこと嬉しい。ようやく報われたね! って言ってあげたいわ」


しんみりと言い、柚葉さんはすっかり湯気の消えたお茶を飲んだ。


「はー、なるほど……。って! いい話にまとめないでください!」


ついうっかり流されそうになってしまった。
一緒になって、ほんのり温かいハーブティーを啜っていたあたしは、慌ててカップを置いた。


「あら。別にいい話にしようなんて思ってないわよ? 本当のことだもの」

「ほ、本当のことって……」

「で、みーちゃんはもう返事したの?」

「は?」


どもるあたしにお構いなしに、唐突に話題を変えられた。
すずい、と柚葉さんが身を乗り出してくる。

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