いつかの君と握手
あたしの言葉なんて聞いていない柚葉さんは、一人で確信したように深く頷いた。
「うん、そうよ。とにかく、でか祈くんをこれまで以上に印象付けるわけ。
手始めに、でか祈くんと接点を増やすことよね。
学校はもう夏休みに入ってるんだっけ?」
「え? ああ、はい。でもまあ、今月いっぱいは学校に行かなくちゃいけないんですけどね。夏季講習があるんで」
クリ高の夏休みは、8月1日から始まると言っていい。
一応終業式は終えたものの、7月は夏季講習という名目で授業があるのだ。
普段と違って午前中に三限のみというカリキュラムなのだが、非常にめんどくさい。
せっかくの夏休みを短くしちゃうなんて酷い話ですよねー、と明日からのことを思い出してげんなりしたあたしに反し、柚葉さんは嬉しそうに手を叩いた。
「あら、それは好都合じゃない。じゃあさ、せっかく同じクラスなんだし、学校生活で仲良くなっちゃえばいいんじゃないの? 一緒にご飯食べるとか、色々やりようはあるでしょ」
「え。学校生活、ですかあ……」
短く答えたあたしの心の裏を、柚葉さんは見逃さなかった。
キラリ、と瞳が光ったかと思えば、ぎゅうと手首を掴み返された。
「学校で何かあるのかしら?」
「ふ、ふへ?」
「学校生活って単語で、あからさまに『うへえ』って顔したでしょ。嫌気がさすような何かがあるのよね?」
「う、うあ」
さすが、三津の嘘を見破ってきただけのことはある、と言うべきか。
些細な変化を見て取るとは。
さあ、言ってごらんなさい? と優しーく微笑む柚葉さんに顔がひきつる。
あー、やっぱこの人すげえや。
ちょっぴり三津の心境が分かったわ。敵わねえ。
「悩み事かなあ? 会話の流れからして、間違いなく祈くん絡みよね。ほら、言いなさいよー。ね?」
「あー……、うー……」
あんまり話したくなかったのになあ。
できればバレないように、と思っていたのに、あっさり気付かれるなんて、あたしも未熟だよなー。
しかし、こんなこっぱずかしい話、どこからすればいいんだ。
切り出しの言葉が出てこず、あうあうと唸った。
何しろ、こんな悩みをこのあたしが抱えることになるとは思ってもみなかったし、今でも自分が渦中の人間だと信じられないくらいなのだ。
タイムスリップだってありえない話だろうけど、あたしにとっては今の状況はタイムスリップ以上にありえない展開。
もしかしたら、柚葉さんに『やだ、みーちゃんてば妄想癖アリ?』と思われてしまうかもしれん。
それくらい、信じがたい話なのだ。
しかしまあ、柚葉さんにはあたしが言わなくとも、いずれイノリの口からバレるだろうしな。
話の信憑性については、イノリに確認してもらうことにしよう。
「ちょっと? みーちゃんってば、どうしたのよう」
「あ、いや、その、別に」
あーもういいや。
言っちゃえ。
「実はあたし、男の魂を喰らう妖怪だったらしいです」
「へ?」
「男二人の魂喰って、虜にしちゃった妖怪らしいっす」
柚葉さんの笑顔が固まった。
「うん、そうよ。とにかく、でか祈くんをこれまで以上に印象付けるわけ。
手始めに、でか祈くんと接点を増やすことよね。
学校はもう夏休みに入ってるんだっけ?」
「え? ああ、はい。でもまあ、今月いっぱいは学校に行かなくちゃいけないんですけどね。夏季講習があるんで」
クリ高の夏休みは、8月1日から始まると言っていい。
一応終業式は終えたものの、7月は夏季講習という名目で授業があるのだ。
普段と違って午前中に三限のみというカリキュラムなのだが、非常にめんどくさい。
せっかくの夏休みを短くしちゃうなんて酷い話ですよねー、と明日からのことを思い出してげんなりしたあたしに反し、柚葉さんは嬉しそうに手を叩いた。
「あら、それは好都合じゃない。じゃあさ、せっかく同じクラスなんだし、学校生活で仲良くなっちゃえばいいんじゃないの? 一緒にご飯食べるとか、色々やりようはあるでしょ」
「え。学校生活、ですかあ……」
短く答えたあたしの心の裏を、柚葉さんは見逃さなかった。
キラリ、と瞳が光ったかと思えば、ぎゅうと手首を掴み返された。
「学校で何かあるのかしら?」
「ふ、ふへ?」
「学校生活って単語で、あからさまに『うへえ』って顔したでしょ。嫌気がさすような何かがあるのよね?」
「う、うあ」
さすが、三津の嘘を見破ってきただけのことはある、と言うべきか。
些細な変化を見て取るとは。
さあ、言ってごらんなさい? と優しーく微笑む柚葉さんに顔がひきつる。
あー、やっぱこの人すげえや。
ちょっぴり三津の心境が分かったわ。敵わねえ。
「悩み事かなあ? 会話の流れからして、間違いなく祈くん絡みよね。ほら、言いなさいよー。ね?」
「あー……、うー……」
あんまり話したくなかったのになあ。
できればバレないように、と思っていたのに、あっさり気付かれるなんて、あたしも未熟だよなー。
しかし、こんなこっぱずかしい話、どこからすればいいんだ。
切り出しの言葉が出てこず、あうあうと唸った。
何しろ、こんな悩みをこのあたしが抱えることになるとは思ってもみなかったし、今でも自分が渦中の人間だと信じられないくらいなのだ。
タイムスリップだってありえない話だろうけど、あたしにとっては今の状況はタイムスリップ以上にありえない展開。
もしかしたら、柚葉さんに『やだ、みーちゃんてば妄想癖アリ?』と思われてしまうかもしれん。
それくらい、信じがたい話なのだ。
しかしまあ、柚葉さんにはあたしが言わなくとも、いずれイノリの口からバレるだろうしな。
話の信憑性については、イノリに確認してもらうことにしよう。
「ちょっと? みーちゃんってば、どうしたのよう」
「あ、いや、その、別に」
あーもういいや。
言っちゃえ。
「実はあたし、男の魂を喰らう妖怪だったらしいです」
「へ?」
「男二人の魂喰って、虜にしちゃった妖怪らしいっす」
柚葉さんの笑顔が固まった。