いつかの君と握手
――入道雲がむくむくと膨らみ、蝉が高らかに声をあげだした夏の朝。
日差しは既に強く、今日も一日照りつけるような暑さなのだろうと思わせる。

夏季講習というただでさえ面倒な登校なのに、それ以上の憂鬱を抱えたあたしは、重たい足取りで教室に足を踏み入れた。


「……おはよー」

「おはよう、ミャオちゃん!」


今までならばそこかしこから挨拶が返ってきていたというのに、笑顔で答えてくれたのは琴音一人。

ああ、いつまでこんな毎日が続くんだろーなー……。
心の中でため息をつきつつ、琴音の後ろの自分の席に向かった。


「あ。おはよ、神楽」

「…………」


神楽に目があったので、笑いかけてみた。
しかし無言で視線を逸らされた。

えー……、めちゃくちゃ露骨なんですけどー。


ショックを受けながら席につく。
教室に入ってからのこの短い間、女子は皆遠巻きに視線を寄越し、男子はにやにやと意味ありげに笑っていた。

この居心地の悪さ、慣れねぇ……。


カバンを机に放り出し、突っ伏した。
その頭を琴音が優しく撫でてくれた。


「ミャオちゃん、朝から元気ないねえ」

「あるわけないっつーの。毎日毎日、針のムシロに長時間正座状態だよ? 学校来るのがキツイよ」

「でも学校来てるのは偉いよぉ、ミャオちゃん。頑張ってるよ!」

「へへ、ありがと……。でも休みたいっなんつったら、テニスラケットでケツぶたれるからさ、それだけの理由なんだよね」

「え……! な、なんでテニスラケット?」

「幸子が近所のおばちゃんたちとテニススクールに通いだした。ハマってるみたいで、暇さえあればラケット握ってんだ」


学校に行きたくない、とごねなかったわけではない。
もうすでに尻を叩かれた後なのだ。
しかも一回やられるだけならまだしも、家を出るまで叩き続けたからね、あの人。
娘にやることじゃないよね。


「おばさん、エネルギッシュだねえ」

「そんな言葉で片付けていいのか?」


家も地獄、学校も地獄なんですよ、はは。

うつ伏せていると、ガラリと戸が開く音がした。
同時に教室内の空気が変わる。

ああ、『来た』のか。

一体どちらか、なんて顔を上げて確認する気はない。
どうせ、嫌でも分かることだし。

ほら、やっぱりね。


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