いつかの君と握手
「おはよう、美弥緒。琴ちゃん」


爽やかな声がした。


「お、おはよう、穂積くん」

「朝から暑いねー、琴ちゃん。
あれ、美弥緒、どうかしたの? 気分悪いとか?」

「ホント、暑いねー、あはは。ミャオちゃんは、えーと、その」


言葉を選びつつ口ごもっている琴音には悪いと思うが、会話を聞き流す。
丸投げしてごめんよ、許してくれよ、と心の中で謝っていると、頭にぽすんと琴音のものではない大きな手の平が乗った。


「美弥緒? 顔、見せてくれないの? ね?」

「…………あー、見せるほどのものでもないんで」

「そんなことないよ。オレにとっては特別な人の顔だよ?」


ざわり、と教室内の空気が揺れた。

ああああああああああ、もう。
注目されていることが分かってるのに、どうしてそういうこと言うかな、この人は!
わざとか。わざとなのか。
そういうことなら、絶対に顔あげねえよ!?


「美弥緒? ね、顔上げてよ。具合が悪いのかと心配になる」


ふ、と近づく気配。耳元に吐息を感じた。


「みーやお?」


囁くような、甘い声。

ああああああああああ、もう。
そういうこと、すんなや。

顔上げます。上げますから。
敗北感を覚えながらしぶしぶ穂積に顔を向けた。


「具合悪くないってば。元気。すごく元気です」

「よかった。おはよう、美弥緒」


にっこりと綺麗な笑みを向けられて、ため息。


「おはようございます、穂積サン」

「ん? 機嫌悪いのかな?」


機嫌はそりゃもう、ここ数日ずぅっと悪いですとも。
その理由くらい、気付いてるよな?


「べ・つ・に。とりあえず、頭の手、どかしてくれない?」


むう、と穂積を見上げると、くすりと笑われた。


「うーん、どうしようかな。美弥緒の髪、柔らかくって好きなんだよね」

「ああもう。そういうコト言わなくていいって」


と、再び戸が開く音。
視線をやれば、奴が気だるそうに入ってくるところだった。
欠伸をしながら流した視線とばちりと目が合う。


「おはよ、ミャ……」


上がりかけた口角が、ぎゅ、と引き結ばれた。
あたしの隣に立つ穂積をぎろりと睨む。
< 226 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop