いつかの君と握手
諍いのど真ん中に身を置く羽目になった、その一番最初はタイムスリップした日の翌日だった。
足の悪いあたしの荷物を持つのは自分だ、と二人が対立したのだ。


『俺が持つから、いい』

『いいよ。先に美弥緒から受け取ったのはオレだし』

『あ、あの、あたし自分で持つから! 元はと言えばあたしの荷物なんだし、持ってもらわなくっていいってば。
おい、聞けよ二人とも!』


目の前で右に左に揺れる荷物。
割って入ろうとしても、二人は一向に口論を止めてくれなかった。
えーい、早よ返せ!


『一体どうなってるの? ねえ、ミャオちゃん!』

『あー、いや、なんだろうね、コレ』


横にいた琴音が、驚いたように目を見張っている。


『二人とも意地でも譲らないって感じだよ。
……ねえ、昨日の夜、何かあった?』


腕を引いて聞いてくる顔は、好奇心で満ちていた。


『えー、と。まあ、あったというか、あったんだけども』


もぐもぐと言うと、殊更強く腕を引かれた。


『何!? 何があったのよう!? 教えて、ミャオちゃん!!』


前夜のイノリとのことは、琴音にはまだ話せていなかった。
タイムスリップのことは置いておくとしても、告白されてしまったことは言っておかなくてはいけないだろう。

あとでゆっくり説明するつもりだったんだけど、と思いながら、琴音の耳元で小さく言った。


『あー、と。端的に言えばイノ、大澤に告白された、ような……』

『大澤くんから告られたぁ…………っ!!??』


叫びそうになった琴音の口を慌てて塞いだ。
のだったが、少し遅く。

それは騒ぎを興味津々に見ていた人たちにまで聞こえてしまっていた。


『ちょっと、どういうこと!? 大澤くんが化け猫に告ったってことっ?』

『嘘でしょ!? だって、だって、ええええええぇぇぇ!?』


爆発でも起こしたかのような騒ぎになった。
どうやら近くにいたらしい神楽や悠美があたしの肩を掴み、


『ウソだよね!? 夢の話ですって言いな、化け猫!』
『本当に大澤くんからなの!? 猫娘が大澤くんに告白したんじゃなくて!?』


殺されるんではないかと錯覚するほどの迫力でがっしがっしと揺らしてくる。
名前も知らない、他のクラスの女の子が琴音にくってかかっているのがちらりと見えた。

スズメバチの巣を叩き落したとしても、ここまでの騒動にはならないんじゃないだろうか。
そういえば蜂って食べられるって聞くけど、美味しい蜂ランキング! なんてあるのかなー。
蜂歴数十年。自他共に認める蜂通の猿股一郎(72)は、長野産のクロスズメバチをイチオシしてます☆ オススメ料理法は勿論素揚げです☆ 柚塩でどうぞ♪ とか。


かっくんかっくんと揺らされながら、余りの事態悪化に現実逃避した。


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