いつかの君と握手
***

「ミャ、ミャオちゃぁん。な、なんだか一触即発、みたいな……?」


うっかり意識を過去に飛ばしてしまっていた。

琴音の怯えた声音で我に返る。
片手であたしの制服の裾を引っ張りながら、琴音は二人をおずおずと指差した。

そうだったそうだった、と見れば、なるほど剣呑な雰囲気で睨みあっている。
いつもよりも二人の間の雰囲気が張り詰めているような気がするのは、気のせい?
いや、緊張感が高まっている、と思うのはやっぱり勘違いではないように思う。


「あー……、と。なんだ、その、もう止めなって。朝っぱらから何でそんなに血気盛んなんだよ。席つけよ」


頭上で睨みあっている二人に、言葉を選びつつ声をかけた。
旅行から既に10日以上過ぎたが、未だに対応が分からずにいるあたしなのだった。

と、憮然としたイノリと、眉間にシワを刻んだ穂積が同時にあたしを見下ろす。

うえ、これは結構迫力ありますね……。
相乗効果ってやつ? 違うか。

と、すぐに表情を崩したのは穂積だった。


「血気盛んだなんて、美弥緒はたまに年寄りくさいことを言うよね」


刺々しい瞳の光は瞬く間に消えうせ、穏やかにそう言ったあとにため息を一つついた。


「美弥緒に嫌われたくないし、大人しく席につくことにします。
うるさくしてごめんね、琴ちゃん」


引きつった顔の琴音に小さく頭を下げて、穂積は自分の席へと去っていった。


「年寄り臭いってなんだ、それ。まあいいや。イノリも自分の席に行けよ」

「……ああ」

「あ! ちょっと待って」


不機嫌な様子で離れて行くイノリを呼び止めた。
くるりと振り返った顔は憮然としている。


「何だ?」

「あのな」


言いながら周囲を窺う。穂積が去ったことで、みんなの視線も離れたようだ。
これなら大丈夫だよな。


「放課後、少し時間ある?」


小声で訊くと、イノリは驚いたように目を見開き、次いでこくこくと頷いた。


「ある」

「じゃあさ、ちょっとでいいから付き合ってくれない?」

「わかった」


イノリの纏っていた空気が一気に変わる。
あからさまに機嫌を良くし、「じゃああとで」と笑みを湛えて言った。


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