いつかの君と握手
さっき買ったやつなんだけどなー。。
もう温くなってしまっている。
でも、文句は言えない。夏は水分補給が大事だしね。

と、琴音があたしの顔をじいっと見ているのに気が付いた。


「なに。今更まじまじと見るもんでもないぞ。いい加減見飽きてるだろ」

「やっぱり大澤くんと付き合うの?」

「は?」

「今はさ、ミャオちゃんは急展開に心がついていかないって言ってるし、傍で見ているあたしもそうだろうなって思うのね。
でも、心が落ち着いたらやっぱり大澤くんと付き合うのかなあって」

「え、あ、は」


急に何を言い出すのだ、この子は。


「ミャオちゃんの運命の相手って感じだもん、大澤くんって。
9年前の出会いと想いをずうっと抱えてて、しかも高校で劇的な再会だよ?
小さな恋の物語だよ!
ドラマだったら絶対くっつく設定だよ!」

「い、いや、イノリと運命とかそんなことないって!」

「そんなことあるってばあ!」


いやいや。これドラマじゃねえのよ、琴音さん。
ドラマっていうのは見目の良い美男美女が主人公、ってのが古来からの決まりごとだろうよ。
光源氏だって相手が不細工だったら話が進まねえだろ。
美人とイロイロやるから華があって面白いんだよ。
あ、でも末摘花って一応ヒロインの一人なんだっけ。
醜いけど性格美人、とかそんな感じだったような。
幼女に熟女に人妻に義母にとまあ、本当に範囲広いよな、あの人。

真の女好きにボーダーラインはないのかね。


って、そんなことはどうでもいいんだ。
とにかくこれは現実の話だしー。
そうそうドラマのようにはいかないわけだよ。

半ば独り言のようにぶつぶつ呟きながら、紙パックを再び手にした。
じゅるる、と音を立てて飲むあたしを見て、琴音が納得できない、というようにため息をついた。


「もお。ミャオちゃんてば、どうして分かってくれないかなあ」

「分かってくれないままで、いいけどなあ。
運命だなんてそんなこと言ったらオレは当て馬になっちゃうじゃないか、琴ちゃん」


突然頭から降ってきた声に、ぶ、と常温になったレモンティーを噴いた。


「ほ、穂積……」

「穂積くん……、聞いてたの?」

「うん。聞いてた」


驚くあたしたちに、悪びれずにっこりと答える穂積。


「好きな女の子のこと、色々知っていたいからさー。情報収集も大事でしょ」


堂々と何を言ってんだ。
つーか、穂積さんって爽やかな外見に反してちょっと黒くないか?
薄々思っていたんだけどさ。


「でさ。美弥緒、やっぱり前に大澤に会ってたんだ? この間までは『知らない』って言ってたのに、どうして分かったの?」

「え? あー、ええと、両親に聞いて、まあ」


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