いつかの君と握手
「じゃあ、最近の大澤の態度があからさまになってきたのも、その辺りの話からなの?」

「ええーと、そ、そんな感じ、かな」

「急に『大澤』から『祈』なんて呼び方に変わったのも、おなじ理由かな?」

「ひ!? あ、ああうん。まあそんな感じです、はい」


気付いてたの!? つーか、色々突っ込まないでよ!
内心慌てながらも頷いた。


「ふうん、そっか……」


穂積が呟くのとほぼ同時に、森じいがようやく姿を見せた。


「すまんすまん! 電話が長引いてなー。よーし、座れー。ちゃっちゃと終わらせるぞー」


おっさんのくせに長電話してんじゃねえよ! とどこからか突っ込みが入ったが、まるっと同意。

遅すぎなんだよ! 結局うちのクラスが一番遅いし!


「じゃあね、二人とも」

「え? ああ、じゃあね、穂積」


あ、穂積の質問攻めが終わったのは幸いだったかも。
森じいGJ!
って、そもそも森じいが遅いからこんな時間が発生したんだった。


やっぱ森じいが悪いんじゃん!


ぶうぶうと文句を言う生徒に辟易したのか、森じいは連絡事項もそこそこにHRを終えた。


「じゃあ、また明日ね。ミャオちゃん」

「あ、うん。じゃーね」


ようやく帰れるー、とざわざわし始めた教室内。
部活があるという琴音を見送っていたら、森じいのしゃがれ声が響いた。


「大澤ー。高原先生が職員室に来いって言ってたぞ。オマエ、なんか頼まれてたんだろ」


森じいの視線の先にいたイノリがげんなりした表情を浮かべた。


「資料整理、だ。掃除のときに捕まったんだった……」

「早く行けよー。高原先生のクラスはもうとっくにHR終わってるぞー」

「遅くなったのは森じいのせいだろ!」

「はは、そりゃそうだ」


がははと笑う森じいにしかめ面を向けてから、イノリがあたしに視線を向けた。
申し訳なさそうに小さく頭を下げるので、口パクで『手伝おうか?』と言った。
が、首を横に振られた。


「いい。悪いけど、少し待っててくれ」


それはいいけど、と頷いた。
自慢じゃないが、予定なんて何にもないしね☆


森じいと共に教室を出て行くイノリを見送った。


< 237 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop