いつかの君と握手
「見せたいものがあったんだ。でも琴音とかにはちょっと見せられないな、と思ってさ」

「なに?」

「えーと、どこだっけ。あ、あった。ほら」


目当てのものを探し出し、イノリの目先に突き出した。


「こんなの撮ったの、覚えてたか?」

「う、わ……」


見せたのは、腕ひしぎ十字固めをかけられて悶絶する三津をバックに撮った写真。
タイムスリップしていたときに、三津のアパートで撮ったものだ。

にっこり笑った柚葉さんに、あたし。そして、ぎこちなく笑っている小さなイノリが収まっている。


「すげえ! こんなのいつ撮ったっけ!? 覚えてねえ!」

「すげえだろ!? あたしもさ、ついこの間これを撮ったこと思い出してさー。ちょっと嬉しかったんだよねー」


昨日、柚葉さんにもこれを見せたのだが、すごく喜んでくれた。
なので、イノリも懐かしんでくれるかなー、と思ったのだ。


「うわー、三津さんすげえ若くね!? 柚葉さんも! つーか俺ちっせぇ!」

「今は黒髪だもんなー、三津。つーか、イノリはちっさくってかわいいよなー」


あたしの手からケータイを奪い取って、楽しそうに画面を見つめるイノリ。
画面の隅に写るアパートの室内も、懐かしさを感じるようだ。
おお、こんなに喜んでくれるのなら見せてよかった。


「なあなあ、これさ、俺のケータイにも転送してくれ」

「いーよー。昨日さ、柚葉さんにもあげたんだ、これ」

「あ、柚葉さんのところ行ったのか? 俺も誘ってくれたらいいのに」

「ぬわ? あ、いやそれはほら、柚葉さんとガールズトークをだな、するからその、ダメだ」


半分はオマエの相談みたいなもんだったし。誘えるわけがねえ。
慌てて言うと、イノリが噴きだした。


「ぷ。ミャオがガールズトークって、なんか変」

「おい、あたしの性別は女だぞ」

「それはそうだけど、内容はどうせ時代劇の話とかなんだろ」

「む」


確かにそれもしたけど。

と、ぐるるるるるる! と景気よくあたしのお腹が鳴った。


「あ。おなかすいたなー」

「おい。女を強調するのなら少しは恥ずかしがったりしたほうがいいんじゃねえの」

「え。だってこれは仕方ないだろ。ほら、とっくに12時過ぎてるんだし」


ほれ、と壁掛け時計を指差すと、見上げたイノリが


「じゃあ、飯食いにでも行くか。俺が待たせたし、奢る」


と言った。


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