いつかの君と握手
――時は十数分前に遡る。
欠伸をかみ殺しながら登校したあたしは、校門のところで知らない女の子に声をかけられた。
イノリのことで大事な話があるので少し時間をくれないか、と言う彼女について校舎裏にある部室棟まで連れられてきた、のだったが。
そしたらびっくり、そこには数人の不機嫌そうな女の子たちがいて、その全員があたしを睨みつけていたのだ。
俗にいう呼び出しってやつだ! と気付いたものの、時既に遅く。
取り囲まれるように、彼女たちの中心に押しやられてしまった。
それからは、口々にブスだの、淫乱だの、妖怪だの、人として全てを否定されるような罵詈雑言を次々と投げつけられた。
怖い! 怖すぎ!
ここ最近、怒った女の子の集団が一番恐ろしい存在となってしまったあたしである。
なので思いっきり怯えてしまい、最初はおどおどとしか言葉を発することができなかったのだが、それでもどうにか彼女たちの意図を伺うと、要はイノリから手を引けということだった。
手を引けも何も、あたしは手を出した覚えはない。
出したと言えるとすれば、それは幼少期のイノリにだ。
とは言え、それを彼女たちに言える筈もなく。
(大きなイノリには)自分から何かした覚えはないのだけども、と遠慮がちに言うと、それは彼女たちの怒りを助長させてしまった。
『あんたみたいな女がただ単純に好かれるわけないじゃん!』
『自分がいい女だとでも思ってんの!? それってすんげー勘違いだから!』
……ええ、はい。その通りですね。
誉められるような素晴らしい美点なんて、どんだけ探してもないですよ。
でも、信じてもらえなくても、そう言うしかない。
だいたい、あたしだって不思議に思っていることなのだ。
どうしてイノリがあんなにあたしを大事にしてくれるのか、分からない。
自分に取り立てて優れたところがないことくらい、百も承知だしね。
できることなら、イノリにそこの辺りを詳しく訊いてもらいたいくらいだ。
なんて思っても、それを口にはできなかったけど。
やり方に間違いはあれど、この人たちはイノリが好きなだけなんだろうなあ、と思うと口にできるはずがない。
彼女たちだって、あたしが充分にデキた人間だったら、こんなことしなくて済んだんだろう。
反論もできなくなって俯いていると、新たな罵声の一つにぴくりと眉が動いた。
『どーせヤラせたんでしょ!? あんたみたいな女、股開くしかないもんね!』
『……。……いや、それは、ダメだろ』
『はぁ!? 何ぼそぼそ言ってんの? 聞こえないんですけどー』
『いや、今のはダメだろって言ったんだよ』
顔を上げて、発言主を探した。
『今、ヤラせたって言った人だれ?』
見渡すと、ショートヘアの女の子が一瞬たじろいだ。
こいつか、と思うと同時に、気が付いた。
この子、この間イノリに告白していた子……?
盗み聞きのような真似をしたことを思い出し、申し訳なくなる。
できることなら謝りたいけど、でもあたしが聞いていたと知るのは、この子をいたずらに傷つけるだけだろう。
あのときは、ごめんなさい。心の中で頭を下げた。
欠伸をかみ殺しながら登校したあたしは、校門のところで知らない女の子に声をかけられた。
イノリのことで大事な話があるので少し時間をくれないか、と言う彼女について校舎裏にある部室棟まで連れられてきた、のだったが。
そしたらびっくり、そこには数人の不機嫌そうな女の子たちがいて、その全員があたしを睨みつけていたのだ。
俗にいう呼び出しってやつだ! と気付いたものの、時既に遅く。
取り囲まれるように、彼女たちの中心に押しやられてしまった。
それからは、口々にブスだの、淫乱だの、妖怪だの、人として全てを否定されるような罵詈雑言を次々と投げつけられた。
怖い! 怖すぎ!
ここ最近、怒った女の子の集団が一番恐ろしい存在となってしまったあたしである。
なので思いっきり怯えてしまい、最初はおどおどとしか言葉を発することができなかったのだが、それでもどうにか彼女たちの意図を伺うと、要はイノリから手を引けということだった。
手を引けも何も、あたしは手を出した覚えはない。
出したと言えるとすれば、それは幼少期のイノリにだ。
とは言え、それを彼女たちに言える筈もなく。
(大きなイノリには)自分から何かした覚えはないのだけども、と遠慮がちに言うと、それは彼女たちの怒りを助長させてしまった。
『あんたみたいな女がただ単純に好かれるわけないじゃん!』
『自分がいい女だとでも思ってんの!? それってすんげー勘違いだから!』
……ええ、はい。その通りですね。
誉められるような素晴らしい美点なんて、どんだけ探してもないですよ。
でも、信じてもらえなくても、そう言うしかない。
だいたい、あたしだって不思議に思っていることなのだ。
どうしてイノリがあんなにあたしを大事にしてくれるのか、分からない。
自分に取り立てて優れたところがないことくらい、百も承知だしね。
できることなら、イノリにそこの辺りを詳しく訊いてもらいたいくらいだ。
なんて思っても、それを口にはできなかったけど。
やり方に間違いはあれど、この人たちはイノリが好きなだけなんだろうなあ、と思うと口にできるはずがない。
彼女たちだって、あたしが充分にデキた人間だったら、こんなことしなくて済んだんだろう。
反論もできなくなって俯いていると、新たな罵声の一つにぴくりと眉が動いた。
『どーせヤラせたんでしょ!? あんたみたいな女、股開くしかないもんね!』
『……。……いや、それは、ダメだろ』
『はぁ!? 何ぼそぼそ言ってんの? 聞こえないんですけどー』
『いや、今のはダメだろって言ったんだよ』
顔を上げて、発言主を探した。
『今、ヤラせたって言った人だれ?』
見渡すと、ショートヘアの女の子が一瞬たじろいだ。
こいつか、と思うと同時に、気が付いた。
この子、この間イノリに告白していた子……?
盗み聞きのような真似をしたことを思い出し、申し訳なくなる。
できることなら謝りたいけど、でもあたしが聞いていたと知るのは、この子をいたずらに傷つけるだけだろう。
あのときは、ごめんなさい。心の中で頭を下げた。