いつかの君と握手
琴音から、急な休みを訝るメールが何通も入っていたのに気付いたのは、眼科での診察を終えてからのことだった。
すっかり心が疲労しきっていたあたしは、家に帰って落ち着いてから、琴音に連絡を取った。
あたしと一緒にいることの多い琴音には、ちゃんと話しておかなくてはならない。
いつ、巻き込まれるとも分からんからね。
まあ、琴音に被害が及ぶようなことになれば、さすがのあたしも怒りますけど!
琴音に傷一つつけさせるつもりはないが、心の準備くらいはしておいてもらいたい。
話を聞いた琴音は電話口でしくしく泣き出してしまったが、それは全てあたしを思ってくれての涙だった。
『ミャオじゃん! あだし、ぜっだいにミャオじゃんまぼる(守る)がらぁ!! その子だちゆるさないがらぁぁ!』
号泣し、鼻の詰まった声でそう言ってくれた。
その友情だけで満足です。
非力で運動音痴の琴音がそこまで言ってくれるだけでもう、こっちが泣きそうでした。
「で! これがいると思って用意しましたーっ!!」
そんな琴音がカバンの中からドラ●もんの如く取り出したのは、手のひらサイズの真っ赤な筒だった。
黄色い字で、DANGER! と書かれているのが見えた。
えーと、危険、ということですか? 物騒ですね。
「な、なにコレ?」
「ミャオちゃんと電話し終わった後にね、ケンくんとお店まわって買ってきた!
催涙スプレーだよ!」
ケンくんとは、琴音が中一の頃から付き合っている彼氏である。
一個上の、現在高校二年生。
将来の夢は自衛官。特技は匍匐前進と野営。趣味は、サバゲー。
母親は自衛官で、自営業の父親はケンくんとおんなじ趣味の持ち主で、ゲームと称しては森の中を徘徊している。
つまり、彼はミリタリーオタクのサラブレッドなのだった。
そんなケンくんと共にまわってきたお店で、何を買ってきたの?
「これね、すごいんだよ! 一噴きするだけでヒグマを撃退できるんだって!」
「え、えーと? 琴音さん、これをどうしろと?」
「だからー、今度呼び出されたら、これを噴きつけちゃえばいいんだよ!
目が開けられなくなるっていうから、その隙に逃げるの。
あ、でも自分が風上にいることをきちんと確認してから使うように、ってケンくんが言ってた。巻き添えくらっちゃうからね? って」
「えー、と」
どこから突っ込めばいいでしょうか。
催涙スプレーって名前は知ってるし、痴漢や暴漢対策に使うという話も聞いたことがある。
でも、撃退対象がヒグマってどういうこと……?
人様に使っても大丈夫な代物なの……?
ケンくんに指導を受けてきたのか、詳しく取扱いの説明をしてくれる琴音のかわいらしい顔を見つめた。
「使い方、分かった? でね、ケンくんがね、あたしのも買ってくれたんだよぉ」
説明を終えた琴音は、二本目も取り出し、見せてくれた。
コンパクトながらぶっそうな機能を持ったモンに、かわいらしいストラップがつけられていた。
DANGER! の横でぷらぷら揺れる、クマの●―さん。
シュールだけど、それでいいのか。
すっかり心が疲労しきっていたあたしは、家に帰って落ち着いてから、琴音に連絡を取った。
あたしと一緒にいることの多い琴音には、ちゃんと話しておかなくてはならない。
いつ、巻き込まれるとも分からんからね。
まあ、琴音に被害が及ぶようなことになれば、さすがのあたしも怒りますけど!
琴音に傷一つつけさせるつもりはないが、心の準備くらいはしておいてもらいたい。
話を聞いた琴音は電話口でしくしく泣き出してしまったが、それは全てあたしを思ってくれての涙だった。
『ミャオじゃん! あだし、ぜっだいにミャオじゃんまぼる(守る)がらぁ!! その子だちゆるさないがらぁぁ!』
号泣し、鼻の詰まった声でそう言ってくれた。
その友情だけで満足です。
非力で運動音痴の琴音がそこまで言ってくれるだけでもう、こっちが泣きそうでした。
「で! これがいると思って用意しましたーっ!!」
そんな琴音がカバンの中からドラ●もんの如く取り出したのは、手のひらサイズの真っ赤な筒だった。
黄色い字で、DANGER! と書かれているのが見えた。
えーと、危険、ということですか? 物騒ですね。
「な、なにコレ?」
「ミャオちゃんと電話し終わった後にね、ケンくんとお店まわって買ってきた!
催涙スプレーだよ!」
ケンくんとは、琴音が中一の頃から付き合っている彼氏である。
一個上の、現在高校二年生。
将来の夢は自衛官。特技は匍匐前進と野営。趣味は、サバゲー。
母親は自衛官で、自営業の父親はケンくんとおんなじ趣味の持ち主で、ゲームと称しては森の中を徘徊している。
つまり、彼はミリタリーオタクのサラブレッドなのだった。
そんなケンくんと共にまわってきたお店で、何を買ってきたの?
「これね、すごいんだよ! 一噴きするだけでヒグマを撃退できるんだって!」
「え、えーと? 琴音さん、これをどうしろと?」
「だからー、今度呼び出されたら、これを噴きつけちゃえばいいんだよ!
目が開けられなくなるっていうから、その隙に逃げるの。
あ、でも自分が風上にいることをきちんと確認してから使うように、ってケンくんが言ってた。巻き添えくらっちゃうからね? って」
「えー、と」
どこから突っ込めばいいでしょうか。
催涙スプレーって名前は知ってるし、痴漢や暴漢対策に使うという話も聞いたことがある。
でも、撃退対象がヒグマってどういうこと……?
人様に使っても大丈夫な代物なの……?
ケンくんに指導を受けてきたのか、詳しく取扱いの説明をしてくれる琴音のかわいらしい顔を見つめた。
「使い方、分かった? でね、ケンくんがね、あたしのも買ってくれたんだよぉ」
説明を終えた琴音は、二本目も取り出し、見せてくれた。
コンパクトながらぶっそうな機能を持ったモンに、かわいらしいストラップがつけられていた。
DANGER! の横でぷらぷら揺れる、クマの●―さん。
シュールだけど、それでいいのか。