いつかの君と握手
何事もなく数日が過ぎた。

穂積や琴音が気を配ってくれているからか、女の子たちからのお呼び出しもなく、なんとイノリと穂積の諍いもない(そもそもは、繰り返される衝突が原因で反感を買ったのではないか、という結論に至ったからだ)。


本当に、驚くほどに平和な日々である。


つーか、穂積。喧嘩せずにいられるんだったら、早くそうしてくれよ、と思わなくもない。
あの頭を抱えた日々はなんだったんだ、もう。


しかしまあ、結果を重視するあたしとしては、ただ偏にありがたいことである。


「やっと、夏休みだねえ」

「おお、ほんとだなー」


森じいの帰りのHR待ち。
いつもの如く待たされているのだが、今日は許せる気分。

貴重な夏休みを大幅に潰した夏期講習も、今日でお終いなのだ。
明日からは寝坊できるし、鳴沢様見放題だし、幸せすぎる!

つーか、一か月は心労ともおさらばだぜ!


「ミャオちゃん、嬉しそうだねぇ」

「当たり前じゃん。毎日憂鬱だったからな。でもそれも今日までだぞ」


いい事は続くもので、帰りに眼科に寄れば、うざったい眼帯も外せる。
つまり、何のしがらみもないまま、夏休みに突入できるのだ。


それに加え。
今朝、イノリから、夏休み中に織部のじいさんの家に遊びに行かないか、と誘われたのだ。


『じいさん、楽しみにしてるし、どうだ? 加賀のオヤジが家まで迎えに行くって言ってるけど』


加賀父とのドライブ!!
しかもお迎え付き!!
断る理由などあるはずがない。

それに、加賀父とはあの旅行の朝以来会っていない。
一度ゆっくり会って、きちんとお礼を言いたかったのだ。
もちろん、織部のじいさんにも会いたいし。


考える間もなく、即答で頷いた。


『行く。行きます。行かいでか!』


身を乗り出すようにして答えたあたしを見て、イノリは愉快そうにくすくすと笑った。


『じゃあオヤジの都合聞いてから、連絡する』

『おうよ!!』


織部のじいさん、9年前と全く同じ姿のあたしを見たらすんげえ驚くだろうなー。
今度こそ幽霊扱いされちゃうかもな。
やっぱり志津子扱いされちゃうんだろうか。

あ! 泊まれるのかなあ。あの檜風呂、もう一回入りたいんだけどなあ。
イノリに聞いてみよう。泊まっていいんだったら花火したい、花火!


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