いつかの君と握手
夏休み気分がぐんと上昇してきて、胸が弾む。
ぐふふ、と笑った時だった。

ばん、と扉が叩きつけられるように開いた。
お、森じいってば今日は気合入ってんな、と視線をやれば、イノリだった。

ん? どうしたんだ。
顔が酷く強張っているが。

何かあったのかな、と思っていると、イノリはつかつかとあたしの方へ近づいてきた、


「ミャオ」

「どした?」


酷く低い声音に違和感を覚えたが、とりあえず聞く。
イノリはあたしの机にばさりと紙の束を投げ出した。


「なんだ、これ?」


一枚手に取って見る。
写真? 何の、って……。


「え……」

「どうして田中とこういうことしてんだよ」


目を疑った。
写っていたのは、あたしと穂積が抱き合っている場面だった。
ど、どういうこと、とよく見てみれば、あたしはピンク色のウェアを着ていた。
場所はといえば、眼科の駐輪場付近。

これって、目が痛くなって眼科に駆け込んだときのやつだ。
上手く歩けなくて、段差に躓いたあたしを穂積が支えてくれたときだ。

でも、どうして写真なんか撮られてんだ?


別の写真をとる。
次は、通学路で穂積と並んで歩いているもの。
あたしが穂積の手を引いている場面もあった。


「なんだ、これ……」


どうしてこんなものが?
誰が撮ったんだよ。


「こっちが聞きてえんだよ。ミャオ、田中となんでこんなことしてんだ」

「それよりどうしたんだ、こんな写真」

「どうでもいいだろ。いいから説明しろよ!」


苛立ったイノリの声は大きくて、騒がしかった周囲がしんとなった。


「い、いや、これはそんな変なことじゃないんだ」

「はあ? これが変じゃねっつーの?」


イノリが指差したのは、ぱっと見には抱き合っているように見えなくもない写真。


「いや、ちゃんと理由があって」

「理由ってなんだよ。納得できるように言えよ」

「いや、だから」


ぐう、と唇を噛む。
どう言えば、あたしが呼び出された内容に触れずにすむ?
イノリには、知られたくないのに。


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