いつかの君と握手
「訊けばいいじゃない。こんな写真撮って大澤くんに渡したの、あなたですかー? って」


うふふ、と肩を竦めて笑う。
その天真爛漫な笑顔に、戦慄した。

この笑顔は、ヤバいやつだ……!!


「いやでも、素直に言うとは思えないけどなー」


何も知らない穂積がふうむ、と唸る。


「彼女だってバレたくないだろうしさ」

「ふふ、そんなことくらい、大丈夫だよう。
本当のこと話すまで訊けばいいだけだもん。ほら、こんなのもあるしー」


がさがさと取り出したのは、例のアレ。
ヒグマを撃退できる、デンジャラスなあの凶器だ。


「これ吹きかけちゃえば、ね?」


うふふ、と笑うその瞳は全く笑っていない。
様子のどこか違う琴音に、穂積がようやく気が付いた。


「美、美弥緒? 琴ちゃん、どうしたのさ?」

「あー、いや、たまになんだけど、手が付けられなくなるくらい怒るんだ、琴音は」


父親と共に大きな野良猪を捕獲したことがあるというミリタリー男ケンくんも、この状態の琴音には全面降伏したと聞く。
決して怒らせてはいけない女なのだ、琴音は。


「とりあえず、いこ? 話を聞かないことにはどうしようもないしぃ」

「ちょ! 琴音ちゃん! それはしまおうよ」

「どうして?」

「い、いやどうして? ってそんな不思議そうに訊く!?」


琴音さん、とりあえずスプレーのトリガーから指を離してください。
点火されかけている爆弾の様子を窺いつつ、とりあえず葵ちゃんの教室に行ってみることにした。


「葵? 今日はもう帰ったよー」


教室に残っていた何人かの女の子が教えてくれた。
それに、こっそり安堵のため息をつく。


「逃げたか……」


滅多に聞けない、琴音の超低音の呟きをなかったことにして、へらりと笑って見せた。


「と、とにかく今日は帰ろう。ね?」

「でも、明日から夏休みなんだよ? その間、大澤くんに勘違いされたままでいいの?」

「い、いや、よくはない。けどまあ、電話でもして、一応誤解を解いてみる」

「そう? でも、葵って子のことはどうするの?」

「新学期でいいよ。誤解を解いてしまえば、どってことないし」

「うーん、そう、かなあ?」

「そうだよ」


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