いつかの君と握手
車道を渡るときは、左右確認をする。
幼稚園の恵美先生や、小学校の佐々木先生。両親やじいちゃんから幾度となく教わったことだったのに。
このときのあたしはそれをすっかり忘れてしまっていた。
ごめんなさい。
絶対に忘れちゃいけないことでした。
「――危ないっ!!」
という大澤の声と、つんざくような車のブレーキ音がして、は、とした。
傘の陰から、迫り来る車の姿を見た。
コマ送りでゆっくりあたし目掛けて突っ込んでくる鉄の猪。
あ。死ぬ。
咄嗟にそう感じた。
これ、死んじゃうや、あたし。
こんなとき、足って動かないんだ。
接着剤か何かでくっついたように、ぴくりとも動かない。
あたしの体ができた抵抗といえば、目をぎゅっと瞑ること、それだけで。
甲高いブレーキ音が近づいて、
ドン
と衝撃を受けたあたしは、意識を失った――――。
気がしたんだけど。
衝撃は少し体を傾げた程度だった。
「あ、ごめんなさい。おねーさん」
「…………は?」
かわいらしい声がして、堅く閉じた瞳をこわごわと開けた。
痛くない。
うん、やっぱ全然痛くない。
つーか、生きてる? 生きてるの、あたし?
「えええええええっ!?」
うそ。あんなスピードで突っ込んでこられたら、普通、さあ。
奇跡的に助かったとしても、怪我くらいはしてるでしょ。
しかし、見下ろした体に、異常はない。
「あれ? あれえ?」
体を見回す。やっぱり異常はない。普段通りだ。
あれ? 何で?
「おねーさん? あの、具合悪いんですか?」
「は?」
見れば、小学校低学年程度の男の子があたしを心配そうに見上げていた。
瞳の大きな、すごくかわいらしい男の子だ。
真っ白のTシャツと、デニムのハーフパンツからはみだしている細い手足があどけない。
幼稚園の恵美先生や、小学校の佐々木先生。両親やじいちゃんから幾度となく教わったことだったのに。
このときのあたしはそれをすっかり忘れてしまっていた。
ごめんなさい。
絶対に忘れちゃいけないことでした。
「――危ないっ!!」
という大澤の声と、つんざくような車のブレーキ音がして、は、とした。
傘の陰から、迫り来る車の姿を見た。
コマ送りでゆっくりあたし目掛けて突っ込んでくる鉄の猪。
あ。死ぬ。
咄嗟にそう感じた。
これ、死んじゃうや、あたし。
こんなとき、足って動かないんだ。
接着剤か何かでくっついたように、ぴくりとも動かない。
あたしの体ができた抵抗といえば、目をぎゅっと瞑ること、それだけで。
甲高いブレーキ音が近づいて、
ドン
と衝撃を受けたあたしは、意識を失った――――。
気がしたんだけど。
衝撃は少し体を傾げた程度だった。
「あ、ごめんなさい。おねーさん」
「…………は?」
かわいらしい声がして、堅く閉じた瞳をこわごわと開けた。
痛くない。
うん、やっぱ全然痛くない。
つーか、生きてる? 生きてるの、あたし?
「えええええええっ!?」
うそ。あんなスピードで突っ込んでこられたら、普通、さあ。
奇跡的に助かったとしても、怪我くらいはしてるでしょ。
しかし、見下ろした体に、異常はない。
「あれ? あれえ?」
体を見回す。やっぱり異常はない。普段通りだ。
あれ? 何で?
「おねーさん? あの、具合悪いんですか?」
「は?」
見れば、小学校低学年程度の男の子があたしを心配そうに見上げていた。
瞳の大きな、すごくかわいらしい男の子だ。
真っ白のTシャツと、デニムのハーフパンツからはみだしている細い手足があどけない。