いつかの君と握手
「ひゃ、ひゃい」


こくこくと頷く。首を横に振るなんて不遜なことしたら、罰が当たる。
大澤父は満足げに頷いた。


「きっとだよ? 全く、祈も君に再会できたのならさっさと言ってくれればいいのに。いつもいつも、俺は後回しで一心にばかり……おっと、君に愚痴を言うなんて失礼」

「い、いえ……」

「もう少し話をしたいんだが、あいにく忙しくてね。きっと、また会いましょう。ああ、これが連絡先です」


大澤父は、慣れた手つきで胸元から名刺入れを取り出した。
一枚差し出されたのを、有難くいただく。
ふおおおお、ありがとうございます!


「じゃあ、また」

「はい! お仕事頑張ってください!」


立ち去る大澤父を最敬礼の角度で見送った。
姿が見えなくなって、は、と我に返る。


「ふあ! ど、どうしよう、これから!」



いつ帰るか分からないなんて、どうしたらいいの。
イノリの性格だったら、登校日も無視しちゃいそうだし!

気持ちとしては一刻も早く謝って誤解を解きたいのに!


「うー……加賀父のとこかあ。柳音寺かあ……」


こんなことにならなければ、数日後にはあたしも行っていたはずなのに。
織部のじいさんに会って、あのお風呂に入れてもらって、スイカ食べるはずだったのに。


あー、ちょっと恨むぞ、葵ちゃん。


「うー……」


座り込んで、唸る。
綺麗な格好をしたマダムが入ってきて、あたしを如何わしそうに見たので慌ててマンションを後にしたものの、道端に座り込んで再び唸る。


「……、よし。決めた」


しばらく悩んだ後、立ち上がった。
こうしていても仕方ない。
行動あるのみ。


「よっしゃ、家に帰るぞ!」


言って、あたしは駆け出した。


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