いつかの君と握手
外はすっかり暗くなっており、景色を見ようとすればガラスに映り込む自分の顔がこちら
を見つめてくる。


うーむ。改めて見ても、相変わらずの地味顔ですね。


もう15年も付き合ってきたものなので、あたしからしてみたらそれなりに愛嬌のある顔立ちなのだが、世間一般的にはインパクトも何もないであろう。


こんな顔を忘れずにいてくれただなんて、イノリは偉いなあ。
一緒にいたのは僅かだったって言うのに。



ぼんやりしている間に、バス停についた。


民家の一つもない、山道のど真ん中。

そんな中にあるバス停で降りたのはあたし一人だった。
あるのはひょろりとした外灯と、ぼろぼろのバス停の看板。民家の気配は一切ない。

看板の横に小さな木の看板があって、御丁寧に『柳音寺→コッチ』とペンキで書かれていた。
あたしのように、バスを乗り間違える人間が他にもいるのだろうか。


「こっち、ね」


有難いことに、数メートルごとに外灯がある。
すっかり暗くなってしまった今、あたしの生命線のような光。
てけてけと歩き始めた。


前にも言ったかもしれないが、あたしは幽霊とかお化けとか、そういうものにすこぶる弱い。
ぶっちゃけ、怖い。
こんな人気のない山道に、なんか人非ざるものとか現れたらどうしよう!!

子どもの頃に見た、『心霊特集・山道で救いを求める女の霊!』的な話を思い出して、歩きながら身震いする。
どーかどーか、そういうものに出会いませんように!
死んだばあちゃん! まじでよろしく!
出てこなくってもいいから遠巻きに見守ってて!

イノリを捜索して山道を歩きまわった時は、怖いなんて考える余裕もなかったんだが、こんな風に一人きりだと、無性に怖い。
田舎の夜って街より密度が濃い気がするんだけど、どうだろう? 同意してくれる人いないかなあ。
と、がさがさという葉擦れの音と、ピキャー! という鳴き声がした。


「ひやあああ!?」


声が裏返った。びっくぅ、と体が震える。
それはどうやら羽ばたいた鳥だったらしい。腰を抜かしかけたあたしの頭上を、夜空に向かって何かが飛び立って行った。


「ちっ! びびらせんじゃ、ねえよ」


ばっくんばっくんと高鳴る心臓を押さえて、強気の発言をしてみる。
すげえ怖かった。ひー、怖い。


「し、しかし行かねばならんのだ! 進め、美弥緒!」


ほっぺたを叩いて、再び歩き始めた。


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