いつかの君と握手
ああやだやだ、最近の男って気が利かないのね。って、まともに知ってる男は孝三とじいちゃんくらいのもんですけどね。

いや、待てよ。
あたしにぶつかったのは車でなく子どもだしなー。
別にいいのか?

でも子どもじゃなく車が迫ってきた生々しい記憶があるわけで、ああ、頭混乱してきた。


「とにかく、駅に行こう、かな」


首を傾げる状況ではあるけれど、とにかく駅に行こう。
ケータイを見ると、8時まであと10分をきっていた。
もう時間がないし、もろもろのことは点呼後に考えることにしよう。
ありえないような気がするんだけど、盛大に寝ぼけていたのかもしれないしな、あたし。
とりあえず琴音に話してみようかな。
笑われるだけかもしんないけどさ。

しっとり濡れたバッグにめちゃくちゃ違和感を覚えつつ、駅へと向かった。
あ、そういや傘はどこに行ったんだろう。
振り返っても、乾いた道路のどこにも、あたしの傘はなかった。



「…………あっれえ?」


この言葉、さっきも口にした気がする。
しかし、もう一回。


「あっれえ?」


いつもと違う雰囲気なのは、何故なんだぜ?

駅の西口広場、集合場所であるはずのところで、あたしはひたすら「あれえ?」と呟いていた。
目の前の景色は、どうもあたしの普段利用していた駅前風景と異なる気がするのだ。
喩えるなら間違い探しのような、そんな感じ。
同じようでいて、どこかが決定的に違う。

駅舎、その脇にあるバス停も当たり前に存在しているし、そこには人がちゃんと往来している。客待ちのタクシーだって並んでる。

どこが違うんだっけ……。

つーか、学校関係者、誰も来てないし。
なんだよ、森じい、遅刻かよ。
しょっちゅう居眠りする上に遅刻って。
年寄りは早寝早起きが基本だろ。じいちゃんがそう言ってたし。


「あ! ロー●ンがヤマ●キになってるー」


たまに利用していたコンビニの店名が変わっていた。看板の色、赤になっちゃってるし。
いつの間に?

しかも、その隣は天然酵母が売りのパン屋さんのはずなのに、たこ焼き屋になってる!
あの店の明太チーズパン、大好きだったのにー。ショック!
この間買いに寄ったときには、閉店なんて話してなかったのに。

つーか、たこ焼き屋、新しく入った割に店が異様に古ぼけてるのはどうして?
そういうコンセプト? 温故知新的な。


< 30 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop