いつかの君と握手
「ミャオ、好きな物は真っ先に食うタイプだろ」

「おう。なくなったら困るからな! ほら、次は火の支度だ!」

「はいはい。少しお待ちを」


手持ち花火はすぐに、光を振り撒いた。
赤から黄色に変化する火の粉のシャワーと共に煙る、火薬の匂い。


「うあー、綺麗だなー。イノリ!」

「おー。久しぶりだ、花火なんてやったのは」

「マジか。あたし毎年やってるぞ。じいちゃんと」

「ホント、じいちゃんと仲いいんだな」

「まあな!」


加賀父が用意していたという花火は、二人でやるには多すぎるほどの量だった。
種類も様々で、ねずみ花火にロケット花火、ヘビ花火まである。
さすが、加賀父のセレクトである。

しかし、イノリはヘビ花火の存在を知らなかった。
なんてこった。
これは小学校の時に爆竹と共に通過していなきゃなんないもんだぜ?


「ねずみ花火と似た感じか?」

「いや、もう全く違う。ほら、見てろ」


ころんとしたそれに火をつけてぽいと放る。
ずも、ずもももももも、と静かに伸びながら蠢く黒いヘビ花火。
安定の動きで地面をのたくっている。

イノリにはその不可解な動きが気持ち悪かったらしい。
うえ、と小さく声を漏らした。


「……なんだ、これ」

「だから、ヘビ花火だってば。このくだらなさがいいよな。あはははは」


毎度思うことだが、花火なんて華々しいモンじゃないよな。
全っ然綺麗じゃないし。ヘビ玉、もけ玉くらいの名前でちょうどいいんじゃないか?


ヘビ花火の後は再び普通の手持ち花火に切り替えてひとしきり遊び、勿論線香花火もやった。

あー、こういう夏って感じのこと大好きだ。
怪我はしたものの、夏休みの始まりの夜としては、最高だ。
幸先いい、絶対。


「なあ、ミャオ」


次はどれをやろうかなー、と花火を物色していると、隣に腰かけているイノリが呼んだ。
イノリは見ている方がいい、だなんてウチのじいちゃんのようなことを言い、専ら後片付け要員と化している。
まあいい、これはあたしが責任もって楽しむのでな。


「んー? お、これ面白そう。レインボー花火だって、さ……」


手持ち花火を数本掴み、振り返った。
うわ、近。
驚くほど近くにイノリの顔があって、それに驚いて声を漏らしそうになる。
が、それはイノリの唇にふさがれて、音にならなかった。

イノリの顔が、吐息が、熱がどこまでも近くなり、あたしのそれと重なった。
ボタタ、と手にした花火が手から滑り落ちる。

それは束の間だったのか、永遠だったのか。
初めての熱と、感触は、「あ」の形で固まってしまっていたあたしの唇を軽く啄み、離れた。


い、いま、なにがあった……?



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